公立図書館が新刊のベストセラー作品の寄贈を求め、寄贈されたものを貸し出している。そのやり方はおかしいのではないか、などといった声があがった。
小説家の万城目学さんは、すべての図書館がこのやり方で本を集めて貸し続けたら「作家は死にます」などとツイートし、議論になっているのだ。
特定のタイトルを掲載してのリクエストはやりすぎ
万城目さんは2016年5月19日にツイッターで、
「図書館の新作の貸し出しについては、寛容であろうと思っています。文化の多様性を支える一翼でありたいからです。でも、これをやられると、やはり心が冷えます。もしも、すべての図書館がこのやり方で本を集め、タダで貸し続けたら、作家は死にます」
とつぶやいた。例としてあげたのが富山県高岡市の市立図書館で、図書館の公式ホームページには「寄贈のお願い」とあり、「予約の多い本です。図書館資料として活用します」と但し書きし、
「羊と鋼の森」(宮下奈都著) 、「アンと青春」(坂木司著)、「橋を渡る」(吉田修一著)、「天才」(石原慎太郎著)、「暗幕のゲルニカ」(原田マハ著)、「同じ夢を見ていた」(住野よる著)のほか、「かいけつゾロリ」シリーズ、「ミッケ」シリーズを挙げている。
実は万城目さん、13年にも同じツイートをしている。内容は、「善意でやっているのは分かっているが、タダで仕入れてタダで貸すのはやめてほしい。市民はよろこぶだろうが」としたうえで、
「それは偽りの正しさで、本当に正しいのは『待てない方は御自分で購入を』と言うことです」
などと要望している。
高岡のように新刊の寄贈を利用者にお願いしている図書館は全国にあるようで、大阪府羽曳野市の市立図書館でも、「リクエストお待たせ情報」ページに「順番が回ってくるまでに数ヶ月かかることがあります」と但し書きし、
「これらの本をお持ちの方で、ご不要のものがありましたら、図書館まで寄贈していただけると幸いです」
と告知している。
今回の万城目さんのツイッターに対し、
「『読み終えた本を寄贈してください』は大抵の図書館で箱を用意してやっているみたいですが 特定のタイトルを掲載してのリクエストはやりすぎに感じますね」
「予算的に可能なら買いたいのです。利用者からは待たせるとは「悪」だと罵られての窮余策だと思います」
「読む機会が皆無よりはましかと。おもしろくて書籍が予約で一杯だったら買う人も出てくるでしょう。そんな書籍をめざすべきでは。高岡図書館の対応を是とする気はまったくありませんが」
などといったリプライが寄せられた。
「借りる層」と「買う層」は異なっている?
高岡市市立図書館にJ-CASTニュースが16年5月24日に話を聞くと、市内には6つの図書館があり人気の新刊には100人を超える予約者が付く。貸出期間は15日間で、次の人に渡るまでに3週間かかる場合もある。寄贈をお願いしているのは短期間にできるだけ多くの図書館利用者に読んでもらえるようにするためだと説明した。それでは寄贈してくれる人がいるのか、というとそうでもないらしい。
「ハードカバーのものについては、必ずしもいただけていない、というのが現状です。文庫本など、呼びかけていないものは多数来るのですが・・・」
ちなみに、石原さんの「天才」もゼロだという。
図書館での新刊貸し出しについてはこれまでも様々な議論があった。15年10月に開催された全国図書館大会では、新潮社の佐藤隆信社長が、売れるべき本が売れない原因の一つが図書館の貸し出しだ、と発言した。一般的に初版の9割が売れて採算ラインに乗り、増刷分が利益になるが、図書館が貸し出したため、あと一歩で増刷できなくなった本が多数ある。今後は、著者と版元の合意がある新刊を「貸し出しの1年猶予」を求めたい。その要望書を15年11月にも図書館側に送る予定だ、などと語った。
J-CASTニュースが16年5月23日に日本図書館協会に取材すると、要望書はまだ届いていない、という。また、出版不況の原因については、
「売り上げが落ちているのは図書館が新刊を貸し出しているから、というのとは別の要因だと思いますよ。借りたら買う人が減る、ということもないと考えます。なぜなら、借りる層と買う層は異なっているからです」
と説明した。
一方、全国の図書館で新刊本の寄贈を求める動きがあることについては、買いたくても買えない「予算不足」を理由に挙げた。1990年半ばから公立図書館の図書購入費は下がり続けている。これは地方財政の悪化が影響していて、図書購入費だけでなく図書館職員の人員削減も起こっている、と明かした。仮に、全国の公立図書館が新刊の寄贈を求めたとしても、
「全く影響がない、とは言えないかもしれませんが、あったとしても極めて微々たるものだと思います」
と話していた。