「もっとも横綱にさせたい力士」稀勢の里が、またもや綱取りに失敗した。期待は名古屋場所に先送りとなったのだが、夢達成までの厳しい道を克服できるのかどうか。
大相撲夏場所(2016年5月8日-22日)は、大関・稀勢の里が横綱昇進をかけた注目の場所だった。結果は横綱・白鵬に阻まれ、ファンの嘆息を誘った。
「しっかり調整して、名古屋に臨みたい」
最大のヤマ場は13日目。白鵬、稀勢の里ともに12勝無敗で対戦したが、白鵬が下手投げでたたきつけた。白鵬はそのまま全勝優勝を飾った。一方の稀勢の里は14日目も負けた。
終わってみれば、なんと土曜日の14日目に優勝が決まり、それまでの盛り上がりがウソのような間の抜けた幕切れとなった。
確かに途中までの主役は稀勢の里だった。大勢の観客が国技館に詰めかけ、声援も日増しに高まり、白鵬を圧倒していた。それが終盤に連敗し、一気に盛り上がりを収束させたのも稀勢の里だった。
「勝負弱い」と指摘されてきた稀勢の里は、やはり最後はその弱点が足を引っ張った。
千秋楽の後、稀勢の里に笑顔はなかった。
「しっかり調整して、名古屋に臨みたい」
ここ何場所も終わった後に語ったコメントを、また繰り返した。先送りへのコメントである。
日本人力士の横綱実現は相撲界の熱望になっている。その期待の大きさは半端ではない。
その一つがこの事実。白鵬に敗れた翌14日目の横綱・鶴竜との一番にかけられた懸賞は60本を超えた。この取り組みの前、優勝に王手をかける白鵬-日馬富士の横綱対決よりも多かった。
「優勝は必須条件だが、内容も重要」
稀勢の里は今、期待と強さを秤にかけられていると思う。期待は100%だが、横綱になる強さとなると、まだ疑問符がつく。
白鵬の思いがこれである。
「大関は強い」と、大関としての力は認めているが、対戦した13日目の相撲には納得していない。稀勢の里十分の態勢となったのに勝てなかった内容のことである。「(その相撲は)綱取りの一番だったといえる」と指摘した。
24日の横綱審議会でも、名古屋場所での稀勢の里の横綱昇進の条件についてこんな話が出た。
「優勝は必須条件だが、内容も重要」
白鵬と同じ考えといえる。つまり白鵬に勝って優勝しろ、ということである。おそらく白鵬にすれば、稀勢の里はまだ一度も優勝していないではないか、という思いがあるのだろう。
稀勢の里にとってこの夏場所は絶好のチャンスだった。日馬富士、鶴竜の両横綱は下降線だし、大物大関の照ノ富士は故障で話にならない状態。白鵬に勝ちさえすれば綱を締めることができた状況にあったからだ。勝負強い力士ならこの機を逃さなかっただろう。日馬富士も鶴竜も白鵬に勝って横綱に登り詰めている。
名古屋場所の前に30歳になる稀勢の里。いい年齢になる。今が最盛期と思われるのだが、これを逃すと、横綱間違いなしと言われながら届かなかった魁皇(幕内優勝5度)と同じ道を歩むことになる。あと一歩は想像以上に厳しく険しい。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)