2016年5月26~27日に三重県志摩市で開かれる主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)に向け、経済分野での政策協調に微妙な影が差してきた。安倍晋三首相が議長として、世界経済を支える強いメッセージを打ち出す必要を訴えてきたが、各国が「財政出動」で一致する可能性が低くなってきたからだ。
サミットの議論の土台になるG7財務相・中央銀行総裁会議(20、21日、仙台市)では、財政出動に慎重なドイツを説得できず、各国がそれぞれ判断するという当たり前のことしか謳えなかった。安倍首相はサミット本番をどうかじ取りするのか。消費税増税の延期の判断にも影響するとみられ、注目が集まる。
またも、ドイツの説得に失敗
2016年に入り、新興国経済の低迷や資源価格の急落をきっかけに、低迷する世界経済をいかに立て直すかが、伊勢志摩サミットの最大の課題に浮上した。そのため、サミットへの日本の基本姿勢は、「主要国が財政出動で協調し、世界経済を支える強いメッセージを打ち出す」(政府関係者)というものだ。
だが、財政出動に関するG7各国の政策スタンスは、積極的なのが日本のほかカナダ、フランス、イタリアで、米国は余裕のある国(ドイツなど)の財政出動を期待するが、自分はやる気なし。キャメロン首相の下で財政再建に取り組む英国、そして伝統的に財政規律を重んじ、経済状況も悪くないドイツの2国が財政出動に消極的だ。
財務相会議は各国の姿勢の違いを改めて印象付ける結果になった。21日の会議終了後の説明で、「金融政策、財政政策、構造改革の3つの政策を各国が『総動員』することで一致した」と説明されたが、あくまで「各国の事情を踏まえ」との前提つき。会見で麻生太郎財務相は「経済成長に需要が必要だと皆一致している」と述べた上で、「需要の喚起へ財政が非常に大きな要素だ」と説明した。しかし、注目されたドイツのショイブレ財務相は「最重要なのは構造改革で、G7内でもこれが重要との認識が増えてきている」と冷ややかだった。
今回、財政出動が注目されるようになった背景には、主要国が共通して依存してきた金融緩和について、市場では限界が認識されるようになり、日本のアベノミクスの3本の矢でいえば2番目の財政出動の必要を唱える声が増えてきたことがある。
そんな空気を反映したのが2月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、共同声明に「財政政策の機動的な実施」が明記された。
安倍首相はこの流れに乗り、サミットに向け財政出動を含む政策協調を打ち出そうと動き、連休中の訪欧で、各国首脳に財政出動を訴えた。だが、ポイントとなるメルケル独首相との会談で、安倍首相が「G7には構造改革の加速化に合わせて機動的な財政出動が求められている」と迫ったのに対し、メルケル首相は「構造改革、金融政策、財政出動を三つ一緒にやっていかなければいけない」などと指摘。会談後の共同会見でのメルケル氏の言い回しも、「財政の安定と構造改革などを通じて(世界経済を)確固たるものにしていく」と、財政規律を重視の姿勢を再確認した。
参院選、そして衆参同日選の目玉対策
サミットにおける財政出動での協調にまい進する安倍首相の視線の先には、言うまでもなく参院選、そして、ことによると衆参同日選がある。熊本・大分の地震に対応する補正予算成立に続き、5月中をめどに「一億総活躍プラン」などの政策メニューをそろえ、秋の臨時国会でも景気対策の補正予算を編成する方針もぶちあげるのは、既定路線だ。
サミットで政策協調をまとめ上げ、「世界のリーダー」として指導力をアピールするのは、選挙対策として大きなポイントだが、そこに、2017年4月に予定される消費税率の10%引き上げを延期するかどうかの決断が絡む。首相はサミットの議論を踏まえて判断すると表明しているが、首相の狙いについて、「増税は財政出動の逆方向の政策であり、財政出動での協調で合意すれば、『消費税増税の延期が日本の最大の財政政策』と、大手を振って消費税増税延期を決められる」(全国紙経済部デスク)という見方が強い。
ただ、年明け以降の市場の不安定な動きも、原油相場が1バレル=40ドル台に戻すなど、このところ落ち着いてきている。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しでは、今年の成長率は米国2.4%、ユーロ圏1.5%、日本0.5%、世界全体でも3.2%。「全般にそう悪くないから、財政赤字を増やす財政出動でG7が協調するはずがない」(エコノミスト)との声も目立つ。
G7財務相会議でも、6月の英国の国民投票でEU離脱が決まれば金融市場が大混乱しかねず、いまや世界経済の最大のリスクというのが共通認識だったとされ、「2月のG20のころの世界経済への危機感は薄れ、財政出動の重要度は後退した」(霞が関関係者)ともいわれる。安倍首相がどういう政策合意をまとめ、消費税増税をどう決断するか。ギリギリの調整が続くことになる。