通常国会の会期末が迫るなか、安保法案の審議をめぐる議事録の作成過程が問題視されている。採決は大混乱の中で行われ、速記録では「速記中止」と書かれていたが、その後出てきた正式版の議事録では、どういうわけか「速記を開始」と書き加えられた。
こういった事態は異例だが、どういうわけかこれを報じる大手紙は少なく、「スルー」に近い形になっている。
「タイム」が入ったはずなのに誰かがこっそり「プレイボール」
問題になっているのは、2015年9月17日の参院安保特別委員会の議事録だ。安保関連法案は委員長席に与野党の議員が詰め寄る大混乱の中で採決され、未定稿の速記録では「速記中止」「発言する者多く、議場騒然、聴取不能」と記述された。法案を可決した事実についての記載はない。だが、約1か月後に出された正式な議事録では、委員会を再開したことを示す「速記を開始し、」という記述が加わり、
「右両案の質疑を終局した後、いずれも可決すべきものと決定した」
などと法案が可決されたという記述になった。
この経緯を16年5月17日の参院予算委員会で、民進党の福山哲郎幹事長代理が問題視。した。
「『速記中止』と言われているということは、議会が1回休憩になったということ。つまり簡単に言えば、野球で言えば『タイム』が入ったということ。新たに『プレイボール』という宣言がないにもかかわらず、いつの間にか、誰か分からないけど『プレイボール』がなりました、ということにして、さも整然と議事が進んだように書かれているのが、この議事録」
「これはまさに事実をねじまげる、歴史に対して背くことになる」
などとして、福山氏は安倍首相に対して議事録の精査を指示するように求めた。
中村剛・参院事務総長は福山氏の質問に対し、速記が中断した状態で、その後、議事録に「速記を開始」の記述をしたのはこの一例だけだと明らかにしている。まさに「異例の事態」というわけだ。だが、安倍氏は
「参議院の運営のことでありますから、参議院でご議論をされ、お決めになることだと思う」
などと一蹴した。
前日には安倍首相が「私は立法府、立法府の長であります」
福山議員が提起した議事録作成をめぐる問題は、テレビでは「報道ステーション」(テレビ朝日)などが報じたが、大手紙では日経新聞が電子版で報じたのみ。毎日新聞は福山議員の質疑について短く取り上げたものの、見出しは「議事録『異例』 付帯決議の動議提出者不明」というもので、「速記を開始」などの文言が加わった件には触れなかった。
一方、安倍首相はその前日の5月16日に行われた衆院予算委員会で、こんな答弁をしている。民主党の山尾志桜里政調会長が、安倍首相の意向で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる審議が優先的に行われたと主張し、TPPだけではなく保育士の処遇改善など民進党側の対案の審議が行われるように安倍首相のリーダーシップを求めた。これに対して安倍首相は
「山尾議員はですね、議会の運営ということについて、少し勉強していただいた方がいいと思います。議会についてはですね、私は立法府、立法府の長であります」
と答弁したのだ。
本当に安倍首相が自らのことを「立法府」=議会の長だと認識しているのか。「行政府の長」と言い間違えたのかは明らかではない。
これについても、一部のブログサイトに記載はあるものの、大手紙ではほとんど見当たらない。