【男と女の相談室】Jリーガーもかかったエコノミークラス症候群 喘息と誤診されやすく、高い死亡率

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   2016年4月14日に発生した熊本地震では、避難所に入れず車中泊を続けた人々が「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」(通称エコノミークラス症候群)を相次ぎ発症し、死者も出たことから注目を集めた。この病気が恐ろしいのは、震災という異常事態に限らず、普通の日常生活の積み重ねの中で発症するケースが少なくなく、スポーツ選手でもかかってしまうことだ。

   4月21日に開かれた日本循環器学会のプレスセミナーで、現在も闘病中のJリーグ・甲府の畑尾大翔選手(25歳)と、畑尾選手を治療している松原広己・岡山医療センター臨床研究部長が、肺塞栓症の知られざる怖さを講演した。

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「なんでこんなにコンディションが悪いのか...」

   肺塞栓症は、その通称のとおり、飛行機のエコノミークラスの狭い座席に長時間座ることなどが原因で発症する。同じ姿勢で座り続けると足の血流が悪くなり、静脈に血栓(血の塊)ができる。椅子から立って歩き始め、血流がよくなると、血栓が一気に肺まで到達して肺の血管をふさいでしまう。空港に到着した途端、倒れる人が多いためにこの通称がついた。

   現在、甲府のディフェンスとして活躍している畑尾選手は、父と兄の影響を受け、5歳の時からサッカーを始めた。学生時代は、早稲田のサッカー部で1年の時からレギュラーになり、順調なサッカー人生を歩んできた。異変に気づいたのは2012年2月。左胸に痛みを感じた。

「スポーツをやっていたので、まったく病気を疑いませんでした。なんでこんなにコンディションが悪いのだろうと不思議に思っていました」

   咳や息切れがひどくなった。同年5月、大学病院で診てもらったが原因がわからず、とりあえず肺にたまった水を抜き、そのままプレーを続けた。同年12月、肺塞栓症とわかり、ドクターストップに。早稲田は翌2013年1月、全日本大学サッカー選手権で優勝したが、畑尾選手は出場できなかった。

   その後、本格的な治療に専念した。岡山医療センターを紹介され、松原氏のもとで2013年9月にバルーン肺動脈形成手術を受け、サッカーの練習に復帰できるようになった。2014年7月、甲府に入団、念願のJリーグ選手になった。まだ、完全に治ったわけではなく、血栓ができるのを予防するために抗凝固薬を飲みながらプレーを続けている。

   それにしても、何が原因で肺塞栓症になったのか。畑尾選手はこう語った。

「練習中、夏場はこまめに水分をとっていましたが、異変を感じた冬場は汗をかきにくかったため、あまり水分をとっていませんでした。それが問題だったのかもしれません」

最初は重症ではなかったのに死亡する人が...

   「なんだ、そんな程度のことで?」と思うかもしれないが、松原氏の話によると、肺塞栓症は、医師でさえあまり問題視しないことが原因で起こりやすいという。

「肺塞栓症のほとんどが足の深部静脈に血栓ができ、それが肺に流れることで起こります。血栓ができる原因は、脱水状態や肥満、妊娠、長い時間座る生活、長期間にわたる寝たきり、生まれつき血液が固まりやすい体質...など様々です。肺塞栓症の主な症状は、呼吸困難や胸の痛み、咳、足のむくみなどですが、肺塞栓症にしか見られない特徴がありませんから、医師の間で認知度が低く、喘息(ぜんそく)などと誤診されやすいのです」

   しかし、喘息とは違い、死亡率が非常に高く、しかも完全に治りにくい病気だという。

「肺塞栓症にかかり、すぐ死亡する患者は全体の8%ですが、その後徐々に死亡率が上がり、2週間後には11%、3か月後には18%に達します。死亡した人の中には、発症時には重症ではなかった人も含まれます。残っていた血栓が後で関係してくると考えられます。実際、急性の患者の5割近くの人が、治療開始1年後も血栓が完全に溶けきらずに残ります。肺塞栓症を発症した人の約30%は、生涯にわたって再発を予防する必要があります」

   最近でこそ、急性期の「エコノミークラス症候群」がポピュラーになり、医師も注目するようになったが、肺塞栓症は時間がたってから重症化するケースが多いことがわかってきたという。松原氏は、生涯にわたり治療を続ける意識を持つため、最近は「肺塞栓後症候群」と定義づける動きが出てきたと語った。

   その「肺塞栓後症候群」の患者の1人である畑尾選手は、「(スポーツ選手である)私がなったのですから他人事ではありません。異変を感じたらぜひ専門医にかかってください」と強調した。

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