最初は重症ではなかったのに死亡する人が...
「なんだ、そんな程度のことで?」と思うかもしれないが、松原氏の話によると、肺塞栓症は、医師でさえあまり問題視しないことが原因で起こりやすいという。
「肺塞栓症のほとんどが足の深部静脈に血栓ができ、それが肺に流れることで起こります。血栓ができる原因は、脱水状態や肥満、妊娠、長い時間座る生活、長期間にわたる寝たきり、生まれつき血液が固まりやすい体質...など様々です。肺塞栓症の主な症状は、呼吸困難や胸の痛み、咳、足のむくみなどですが、肺塞栓症にしか見られない特徴がありませんから、医師の間で認知度が低く、喘息(ぜんそく)などと誤診されやすいのです」
しかし、喘息とは違い、死亡率が非常に高く、しかも完全に治りにくい病気だという。
「肺塞栓症にかかり、すぐ死亡する患者は全体の8%ですが、その後徐々に死亡率が上がり、2週間後には11%、3か月後には18%に達します。死亡した人の中には、発症時には重症ではなかった人も含まれます。残っていた血栓が後で関係してくると考えられます。実際、急性の患者の5割近くの人が、治療開始1年後も血栓が完全に溶けきらずに残ります。肺塞栓症を発症した人の約30%は、生涯にわたって再発を予防する必要があります」
最近でこそ、急性期の「エコノミークラス症候群」がポピュラーになり、医師も注目するようになったが、肺塞栓症は時間がたってから重症化するケースが多いことがわかってきたという。松原氏は、生涯にわたり治療を続ける意識を持つため、最近は「肺塞栓後症候群」と定義づける動きが出てきたと語った。
その「肺塞栓後症候群」の患者の1人である畑尾選手は、「(スポーツ選手である)私がなったのですから他人事ではありません。異変を感じたらぜひ専門医にかかってください」と強調した。