殺虫剤の効かないトコジラミが近年、日本の都市部や地方の観光地で発生し問題になっているが、その「スーパートコジラミ」の秘密が明らかになった。
オーストラリア・シドニー大学の生物学者デビッド・リリー博士が、トコジラミの新種が殺虫剤を防ぐメカニズムを解明し、米の科学誌「プラスワン」(電子版)の2016年4月13日号に発表した。
1970年代に絶滅した憎いヤツが海外から復活
トコジラミは、かつては「南京虫」と呼ばれていた。体長5~8ミリの小さな昆虫だが、自分の体重の数倍もの血を10~20分もかけて人間や犬猫から吸って膨れ上がる。その姿が赤い南京豆に似ているところから名づけられた。日本では1970年代に全国的な駆除に成功し姿を消したが、グローバル化によって海外旅行から卵を持ち帰る人が増え、再び猛威をふるいはじめた。2013年の東京都保健衛生局の調査によると、都内の住宅やホテルなどの発生被害の届け出が4年間で65件から352件の5倍に急増した。
欧米では、2010年頃から殺虫剤が効かないスーパートコジラミが出現、すさまじい勢いで被害が増えている。ニューヨーク市では年間約1万件増のペースで被害届が出され、マンハッタンの中心部でホテルやブランド品店の休業が相次いだ。ニューヨーク市の惨状を深刻に受け止め、日本でもJTB協定旅行ホテル連盟が2011年10月、会員向けに「トコジラミ駆除費用保険」を発売した。
殺虫剤の耐性を身につけるため皮が分厚く進化した
シドニー大学のリリー博士らは、これらスーパートコジラミを大量に採取し、電子顕微鏡などで詳細に体を調べ、殺虫剤が効くトコジラミと比較した。その結果、トコジラミはクチクラ(角皮)という硬い皮膚で覆われているが、スーパートコジラミの皮は特別に分厚いことがわかった。様々な殺虫剤で試すと、皮が厚い虫ほど生存率が高かった。薬への耐性を身につけるために、皮が厚く「進化」したらしいという。
リリー博士は「トコジラミが殺虫剤に対抗するために培った生物学的メカニズムを解明できれば、その防御の隙を突き止められる。その弱点が新しい対策に利用できる可能性は高いと思います」とコメントしている。
トコジラミは血を吸わなくても、低温状態だと1年以上生き延びるしぶとい相手だ。2020年の東京五輪は、「おもてなし」の裏側で、この手ごわい相手との熱いバトルが繰り広げられそうだ。