カナダに住む15歳の少年が、なんともユニークな方法で古代マヤ文明の遺跡を発見した――。こんなニュースが世界中を駆け巡り、日本でも大きな注目を集めた。
ところが、少年の「世紀の大発見」に疑問の声が上がり始めている。専門家によると、実際は「トウモロコシ畑の休耕地」ではないかというのだ。
ニュートンツイッターも大興奮「夢が広がります」
当初報じられたニュースの大筋は、次のようなものだ――少年の名前はウィリアム・ガドリー。「2012年に地球は滅亡する」というマヤの予言をきっかけにマヤ文明に興味を持ち、研究を始めた。そして「なぜマヤの都市は川から離れた不便な山の中につくられているのだろう」と不思議に思うようになった。
そこでウィリアムくんは、古代マヤ人が星を崇拝していたことに着目。20以上のマヤの星座をユカタン半島の衛星写真に重ね合わせたところ、117の都市が星座の位置と一致することが分かった。
そんな中、ある星座を構成する3つの星のうち、対応する都市が2つしかないことに気付いた。カナダ宇宙局から精細な衛星写真を提供してもらい、グーグル・マップと重ねて調べてみると、星と対応する地点に四角い構造物を「発見」。未知の古代都市の場所を割り出し、マヤの言葉で「火の口」を意味する「K'AAK' CHI'」と名付けた――。
2016年5月7日にカナダの地元紙が報じると、多くのメディアがこれに続き、「世紀の大発見」として世界中で注目を集めた。
日本でも10日ごろから複数のメディアが取り上げて話題に。科学雑誌「Newton(ニュートン)」の公式ツイッターアカウントも10日、日本語記事を引用しながら、「『星座の並びとGoogle Mapから、未発見のマヤ文明の都市を特定』とはすごい!」「夢が広がります」と興奮気味に紹介していた。
だがその後、各メディアは追記対応に追われることになった。報道を受け、人類学者や考古学者から疑問の声が続出したのだ。
「失われた都市」の正体は...
たとえば、マヤ文字解読の第一人者である米テキサス大学のデビッド・スチュアート氏は自身のフェイスブック(すでに削除)で「衛星写真上で見つかった四角い図形は確かに人工物ではありますが、昔の休耕畑またはミルパ(編注:トウモロコシ畑)でしょう」とコメント。さらに、
「古代マヤ人は、星座に応じて都市を配置したのではありません。ロールシャッハテスト(インクのシミが何に見えるか問う心理検査)と同じで、星が数多あるように、いたるところに遺跡があるというだけです」
と解説した。
人類学者のトーマス・ガリソン氏もギズモードの取材に対し、衛星写真に写っていた「古代都市」の正体は「ミルパ」だと指摘。「おそらく10~15年間は放置されているのではないでしょうか」と推測した。
古代マヤにおいて天文学が発達していたことは事実だが、実はマヤの星座のほとんどは明らかになってないという。スロベニアの考古学者であるイヴァン・シュプライツ氏は、同じくギズモードの取材の中で、星と都市の位置が対応しているかどうかを確かめるのは不可能だとしている。
ちなみに、ウィリアムくんが示した星座と都市の対応図をみてみると、縮尺や向きにバラつきがあった。
こうした指摘を受け、各メディアは追記をしたり、続報を出したりと対応を余儀なくされた。ニュートン公式アカウントも11日、
「元ニュース記事やカナダ宇宙庁のtweetなども確認できたため,ガセネタではないと判断し、紹介しましたが、真偽を見分けるのはとても難しいものです。また進展がありましたら、追って報告致します」
と投稿した。
ただ、ウィリアムくんの努力や熱意は専門家らも評価しているところで、ネット上でも「これにめげずにもっと高みを目指してほしいわ」「これからも折れずに考古学の道を歩んでほしい」といったエールが送られている。