滋賀県庁の敷地内に出店していた「カレーハウスCoCo壱番屋」。それが閉店に追い込まれたと騒ぎになるなかで、ネットでがぜん注目を集めることになったメニューがある。
その店舗では鹿の肉を使ったカレーが販売されていたのだ。しかも大人気らしく、ネットでは「食べてみたい」「県外でも提供してくれ」などといった声があがった。
県庁敷地内店舗の閉店騒動から存在が全国に広がった
県庁の敷地内で鹿の肉を使ったカレーを販売していたのは壱番屋のFC店12店舗を展開する「アドバンス」(長浜市)。なぜ鹿の肉を使ったオリジナルカレーを販売したのか、は7年前に遡る。まず、県庁の敷地内に臨時店舗を出店したのは、シカの食害に悩む県がその抑止に努力しているというPRを目的として依頼したからだ。2015年2月から毎週火曜日の昼に販売を行い、16年に入ってからは隔週火曜日の販売となった。1食税込み900円と値は張るが人気は上々で、県庁職員を中心に行列ができた。閉店のため最終日となった16年5月10日には雨がパラついたにも拘らず、鹿肉の立田揚げがトッピングされた人気メニューはあっという間にさばけ、100食が売れた。なぜこれだけ売れるのに閉店したのか。県庁の総務課は、
「駐車場に車を止めて販売する形式であり、長期間の営業は県の公有財産事務規則に抵触するからです」
と説明した。しかし、もともとは県が依頼し食害抑止のPRとして使っていたのではないのか、と質問したのだが、回答は得られなかった。こうした県の対応については、「食害抑止はどうするんだ!」「全くのお役所仕事ではないか」などといった批判も寄せられている。
こうした騒ぎでがぜん注目を集めることになったのが、普通の「ココイチ」店舗ではお目にかかれない鹿肉カレーだ。ネットでは、「シカカレー食いたかった」「県外でも提供してくれ」などといった声があがった。「アドバンス」にJ-CASTニュースが5月12日に取材したところ、滋賀県にはニホンジカが4万7000~6万7000頭生息すると推定されていて、それが年間約30%増えている。稲を中心とする自然植生の食害の農作物被害額は年間約1億2000万円にも上るという。県の猟友会は鹿の駆除をしていたが、日野町猟友会が約7年前に獣肉解体処理施設「獣美恵堂(じびえどう)」を開設してレストランなどに鹿肉の販売を始めた。「駆除のためだけに鹿を狩るのは命に申し訳ない」というのが理由で、それに賛同したのが「アドバンス」だった。
現在は10店舗で販売
「アドバンス」が鹿肉カレーを提供し始めたのは10年からで、鹿の肉は猟師から仕入れ、それを加工するための自社工場も持った。始めは鹿の肉に抵抗感を持つ客もいたが、販売して直ぐにヒットする手応えはあったという。現在は10店舗で販売していて、値段は1食税込906円。鹿の肉の仕入れ値は国産和牛より高価で、この値段でも利益は殆どないという。それでも続けているのは、鹿害の抑制に貢献したいという思いがあるからなのだという。1か月間の販売数は約1500食だ。
「鹿は栄養価が素晴らしいため、健康志向の方に受けがいいのと、当社の取り組みに賛同してお召し上がりになる方など様々です」
と同社では話している。また、15年夏からは、県産の鹿肉を使ったレトルトカレー「淡海(おうみ)の国・滋賀 鹿肉の煮込みカレー」(1食220グラム、税込み600円)の通信販売も始めている。
全国の大手飲食チェーンとして野生鳥獣肉(ジビエ)を扱ったのは、これが初めてだと話題になり、その後は北海道、長野、三重、和歌山、大分の一部店舗でも地産地消の「ココイチ」鹿肉カレーが出るようになった。そんな取り組みをしてきた「アドバンス」。県庁内の店舗の閉店をどうとらえているのか。担当者は、
「あのような素晴らしい場所に1年2か月の間、出店させていただけたことについては、ただただ感謝しかありません。閉店を惜しんでくれるお客様も大勢いて涙の別れになりましたが、もしまた機会があるなら、なんとか出店させて頂ければということを願うのみです」
と話していた。