2016年4月1日の出荷分から、25年ぶりに値上げした赤城乳業のアイスキャンディー「ガリガリ君」の売れ行きが、その後も好調だ。
「ガリガリ君」は年間4億1000万本(2015年)を販売する、赤城乳業の看板商品。1981年に50円で発売したが、1990年に60円に価格を改定。その後は「子どもが買いやすい価格を」と頑張ってきたが、この4月からは10円値上げして税別70円に設定した。
「すべてを正直に話したのがよかった」
赤城乳業のアイスクリームは2016年4月1日出荷分から、10円から30円値上げされた。値上げ率は6.7~16.7%。なかでも注目を集めたのが、いまや「国民的」ブランドのアイスキャンディー「ガリガリ君」で、1本あたり10円(16.7%)値上がりして70円になった。
食品に限らず、消費者は「値上げ」には過敏だ。値上げ後に、来店客が減ったり、売り上げが落ち込んだりということはよくあること。最近はアベノミクスによる円安の影響で、輸入頼みの原材料が高騰。また、人手不足を背景に人件費や物流コストが上昇し、モノの値段は上がる一方。どの企業も値上げによる客単価の増加で売り上げの減少を補い、また維持しようと懸命だが、うまく計画どおりに運ぶとは限らないのが現実だ。
「ガリガリ君」の値上げについては、赤城乳業でも、7~8年前から議論を続けてきた。「企業努力を続けながら価格を据え置いてきたものの、昨年(2015年)は利益が出ないぐらい、限界にきていました」とし、1年間見送ったうえの「苦渋の決断」だったという。 値上げに対する消費者の厳しい反応を予想し、前年比で6%程度売り上げが落ちるとみていた。
ところが、「ガリガリ君」は値上げした2016年4月の販売本数が、逆に前年比10%増と、好調を維持した。その要因について、赤城乳業は「すべてを正直に話したのがよかったと思います」と話す。テレビや雑誌、インターネットメディアなど、値上げに関する取材にはすべて対応。「会社としてもニュースリリースやテレビCMを通じて、まっすぐな気持ちを伝えてきました。それが支持されたと考えています」と分析する。
なかでも、テレビの「お詫びCM」は消費者に高く評価されたようだ。前列中央に立つ井上秀樹会長(72)をはじめ、役員・社員ら約100人がスーツなどに身を包み、神妙な面持ちで正面を見据え、最後に全員で深々と頭を下げる。4月1日の公開後、瞬く間に評判を呼び、インターネットの動画サイトなどで話題をさらった。
会社としての姿勢が消費者に伝わり、好意的な評価につながったということのようだ。
「値上げがいい宣伝となったのでは?」
「ガリガリ君」の値上げについて、インターネットでは2016年3月の発表当初から、
「よく耐えているよ。生き残ってなおこの価格帯で勝負していることに勲章を授けてもいいくらい」
「値上げしても他のアイスより安いよ。値上げした感じがないwww」
などと、好意的な声が多く寄せられていた。
好調な売れ行きが2016年5月9日付の東洋経済オンラインなどで伝わると、
「逆に今回の値上げがいい宣伝となったのでは?」
「パッケージそのままにごまかすように内容量減らされるくらいなら、素直に値上げされたほうがまだマシ」
「きちんと正直にいいモノをつくれば、少しくらいの値上げではお客は離れないことを証明した」
などの称賛の声は少なくない。
1990年にも、50円から60円に値上げした「ガリガリ君」だが、赤城乳業は「じつはこの時も1年間見送っていたんです」と、明かす。当初値上げを予定していた1989年は、4月に消費税(税率3%)が導入され、それに伴い食品をはじめモノの値段が相次いで値上がりした。値上げで売り上げが減ることを懸念したが、「子どもが気軽に買える価格」にこだわったこともある。
赤城乳業によると、当時の「ガリガリ君」の売り上げは年間約3000万本。1年遅れで消費税分を含め10円値上げしたものの、「販売本数で現在の10分の1にも満たないですし、『国民的』なブランド力もありませんでしたからね。それもあってか、当時(1990年)の値上げが売り上げに影響したことはあまりありませんでした」と振り返る。