熊本地震の震源となった「日奈久断層帯」と同じ名前を持つ、熊本県八代市の日奈久温泉が、地震の影響による「風評被害」に頭を抱えている。
今回の地震による目立った被害は出ていないにも関わらず、2016年4月14日に発生した「前震」以降、日奈久温泉街を訪れる観光客は激減。一般の宿泊客の数はほぼゼロになった。関係者からは「宿泊についての問い合わせ電話すら一切なくなった」「風評被害というものを実感せざるを得ない」などと訴える声が出ている。
GW中心に5000人以上の宿泊客が「ゼロ」に
熊本地震の発生以降、布田川断層帯とともに「震源」の1つとして注目され、連日テレビや新聞などのメディアで盛んに名前が叫ばれる「日奈久断層帯」。熊本県西部を南北に走るこの活断層のほぼ真上に位置している日奈久温泉が、いま苦境に立たされている。
一連の地震によっても大きな被害を「受けていない」にも関わらず、観光客が温泉街を訪れる気配が見えないというのだ。八代市の最大震度は6弱で、日奈久温泉でも一部の旅館で屋根の瓦が落ちたり、土壁が剥がれたりはしたが、実際のところ、建物の倒壊やけが人など目立った被害は出ていない。
だが、日奈久温泉旅館組合の担当者は、5月9日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「熊本地震の発生以降、一般の宿泊客はほぼゼロになってしまいました。宿泊予約のキャンセルも相次ぎ、ゴールデンウィークも観光客の姿は全くといっていいほど見られませんでした」
と話す。さらに、「宿泊についての問い合わせ電話すら一切なくなった」とも述べ、「今後も宿泊客の数が回復する目途は立っていない」と声を曇らせた。
例年、4月中旬からの大型連休を含んだ1か月の間には5000人以上の宿泊客が訪れていたというが、今年の一般客はほぼ0人になる見通し。ただ、現在は災害の復興事業者や物流関係者などの宿泊を優先しているため、一般客の受け入れは中止している旅館も多いという。
「正直、風評被害というものを意識せざるを得ません」
日奈久温泉の関係者からは、「日奈久断層帯」のイメージがもたらす風評被害を危惧する声も複数出ている。温泉旅館組合の関係者は取材に対し、「目に見える被害はほとんどないのに、観光客の姿だけが消えてしまった。正直、風評被害というものを意識せざるを得ませんよ」と話す。
また、名産品の日奈久ちくわを販売する「とらや」の店員は、
「風評被害を心配する地元の人間は多いですよ。やはりあれだけテレビや新聞で『日奈久断層帯』の名前が出てくると、日奈久の地名に地震のイメージがついてしまうのではないか、と不安になります」
と話す。実際、「とらや」でも、観光客の減少から店先での売上が落ち込んだだけでなく、遠方地からの注文数も激減しているという。
一方で、温泉旅館「金波楼」の担当者からは、
「今後、風評被害の影響がより顕著に出てくるかもしれません。ですが、それを取り除くため、これからも元気な日奈久温泉の姿を見せていきたいです」
と力強い言葉が出ていた。