コンビニエンスストア大手、ローソンは2016年6月1日付で、竹増貞信副社長(46)が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格し、玉塚元一社長(53)は会長兼最高経営責任者(CEO)に就く。
「なぜ今のタイミングなのか」といぶかしがる見方も強い社長交代に、ローソンがあえて踏み切った背景には、同社の焦燥感がある。
ファミリーマートの経営統合が引き金
「海外事業で三菱商事の力をもっと使えるのではないか」。東京都内で3月末に開かれた記者会見で、竹増氏はこう語った。三菱商事はローソンの筆頭株主で、竹増氏は同社出身。竹増氏が三菱商事のバックアップの重要性を明確に打ち出したことに、ローソンの今後の方向性がうかがえる。
コンビニ業界は今、従来にないほどの激しい競争と混乱期にある。まず最大手セブン-イレブン・ジャパンを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングス(HD)の鈴木敏文会長兼CEOの辞任だ。日本のコンビニの「生みの親」とも言われ、ビジネスモデルや商品開発で業界を先導してきた鈴木氏が突然、姿を消すことになり、セブン-イレブンの行方に暗雲が漂う。コンビニ業界の勢力図が大きく塗り替わる可能性を指摘する向きもある。
ローソンはそもそも、これまで「万年業界2位」の地位にあった。セブン-イレブンの行方次第では、ローソンにとっては絶好のチャンス到来ともなるが、ローソンの地位は今、大きく揺らいでいる。最大の要因は、業界3位のファミリーマートの動きだ。
ファミリーマートは16年9月、ユニーグループ・ホールディングスと経営統合する。これにより、ユニー傘下でコンビニ業界4位のサークルKサンクスとの統合が実現、新ファミリーマートはローソンを一気に追い抜いて業界2位になる。
店舗数で見ても、ローソンは約1万2300店で、ファミリーマート(約1万1600店)とサークルKサンクス(約6300店)を足した数に大きく引き離される。しかも新ファミリーマートはセブン-イレブンの約1万8500店に肩を並べる巨大な存在となる。ローソンは、上位2社に大きく水をあけられることになる。
筆頭株主・三菱商事を巻き込む戦略
ここでローソンが前面に打ち出したのが三菱商事との連携強化だ。同社出身の竹増氏を社長に置くことで、「三菱商事を巻き込み総力戦に持っていく」(玉塚氏)という態勢を整えたといえる。今後は、三菱商事の資金力やマンパワーを積極的に活用し、三菱商事と一体となって、同業他社に遅れをとっているとされる海外事業をはじめ、商品開発や効果的な原料調達を強化する構えだ。
ただ「竹増氏の前途は多難」との見方は業界では根強い。まず、竹増氏の最大の任務とされる海外事業だ。アジア各国では先行するファミリーマートなどが苦戦しており、簡単に展開できるとはみられていない。
竹増氏は「元々社長含みで三菱商事がローソンに送り込んだ」(商社関係者)とされてきたが、ファミリーマートの規模拡大で、想定より早く社長に就いたと見る向きもある。実際、竹増氏はローソン副社長になってから成城石井、シネコン運営のユナイテッド・シネマなど新たにグループに加えた事業を統括してきており、コンビニ事業は引き続き玉塚氏が統括するとされるのも、「早すぎた社長就任」を裏付けているともいえる。
とはいえ、社長としてコンビニ事業を「わが物」にしていかなければならないのは当然。特に、コンビニではトップがフランチャイズのオーナーとの信頼関係を築くことは必須条件だが、竹増氏は2014年5月にローソンに来てからまだ2年とあって、「密接な関係ができているかは疑問」との声が業界では聞かれる。
ローソンの正念場をいかに乗り切っていくか、竹増氏の手腕が注目される。