一部の遺伝性の重い病気の中には、病気を引き起こす遺伝子を親から受け継ぐと「必ず」発病する疾患があるとされてきた。ところが、大規模な人数の遺伝子を分析した結果、何らかの理由で発病しない人が少なくとも世界に13人いることがわかった。
この幸運な人たちは「奇跡の遺伝子」を持ち、発病を避けているらしい。この遺伝子を突きとめれば、多くの遺伝性疾患を防ぐことができるのだが......。
いずれも致死性が高いのに発病すらしない...
この研究をまとめたのは、米シアトルの非営利研究機関サージ・バイオネットワークスのステファン・フレンド代表らのチームだ。英の科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー」(電子版)の2016年4月11日号に発表した。
チームは、遺伝性疾患の治療方法を研究するために、たった1つの遺伝子変異が原因となり、親から子に受け継がれて発病する、いわゆる「メンデル遺伝病」に着目した。「メンデル遺伝病」は、メンデルの遺伝法則をもとに名付けられた遺伝性疾患で、数千種類あるといわれる。その中でもその遺伝子変異を持つと「必ず」発病する病気を「完全浸透性疾患」(遺伝子の影響が完全に次世代に伝わる)という。全部で125種類あり、計874個の遺伝子変異が関わっている。
研究チームは、ほかの多くの研究プロジェクトの協力を得て、約59万人の遺伝子データを集め、その中から874個の遺伝子変異を1つでも持つ人々を突きとめた。ところが、医療記録などから、その人々の中で少なくとも13人が遺伝子の影響を完全に避け、発病していないことがわかった。これまでの医学の常識を覆す発見だったという。
13人が持っている遺伝子変異にかかわる病気は、「嚢胞(のうほう)性線維症」(重症の肺疾患)、「スミス・レムリ・オピッツ症候群」(死亡率の高い発達障害)、「家族性自律神経失調症」(幼少期の死亡率が高い神経疾患)、それにいくつかの骨の障害など8種類の疾患だ。いずれも幼少期に発症し、しかも重症化する可能性が高い。