夏の参院選に向けて憲法改正問題が議論されるなかで、全国紙各紙は2016年5月3日の憲法記念日に様々な特集や社説を掲載した。
改憲を主張する産経、読売、日経と、現状では改憲に慎重な朝日、毎日という構図は変わっていないが、産経の「主張」を除くと、各紙の社説からは「9条改正」をめぐる言及がすっかり影を潜めた。集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更と安全保障法制の施行が、「9条改正」論議に微妙な影響を与えた節がある。
朝日も読売も「立憲主義」
この日の各紙は、憲法問題を1面で扱った(東京紙面)。朝日、産経はそれぞれトップで扱ったのをはじめ、全紙が社説で憲法を取り上げ、特集も組んだ。
また、朝日、毎日、日経は同日付で世論調査を掲載。3紙とも、憲法改正の賛否について聞いた結果を載せた。「改憲反対」派が従来より増えたのが朝日(55%)、日経(50%)で、毎日は42%と「改憲賛成」派と同数だった。朝日、毎日は「9条改正」についても賛否を聞き、それぞれ「反対」が朝日68%、毎日52%と報じた。
また、安倍政権のもとでの改憲に慎重な朝日や毎日が持ち出すことが多かった「立憲主義」について、改憲派の読売が「改正へ立憲主義を体現しよう」と社説の見出しに掲げたほか、産経も1面コラム「産経抄」で、憲法改正を「『立憲主義』の考え方にも矛盾しないはずだ」と、「立憲」ということばを競って使いあい、見出しだけ見ると、どちらがどちらの新聞かわからない印象さえある。
産経だけは「9条改正」を前面に
また、各紙の社説には、産経を除き、共通した特徴も出た。
産経は各紙の社説に当たる「主張」に「9条改正こそ平和への道だ」との見出しを掲げ、脇見出しも「国民守れない欺瞞を排そう」と、全国紙の中では唯一、9条改正を真正面から主張した。戦争放棄や戦力の不保持を規定した9条について、「日本の防衛力に過剰な制限を抱えている」とし、「独立国の憲法とは言い難い」と従来の主張を展開した。
だが、同じ改憲派の読売は、憲法改正を呼びかける社説を掲載したものの、9条改正について「望ましい」とはしながら、「直ちに国会で合意できる状況にはない」と表現。むしろ、見出しでもうたっているように、大災害時などに一時的に政府の権限を強める「緊急事態条項」を優先的に論じることを前面に出した。
「憲法と現実のずれ埋める『改正』を」との社説を掲げた日経も、緊急事態条項などに多くの字数をさき、「9条にばかりこだわる不毛な憲法論争からはそろそろ卒業したい」と、9条からは距離を置く姿勢を明確にした。
これに対し、朝日は1面に論説主幹論文「立憲主義を取り戻す時」を掲載したほか、社説「歴史の後戻りはさせない」を組んだが、主幹論文のなかで集団的自衛権にからんで9条に触れた部分はあるが、社説には「9条」という単語は出てこない。毎日は「まっとうな憲法感覚を」という社説を載せたが、こちらにも「9条」は出てこない。一方で、朝日も毎日も、社説と別の「オピニオン面」では、憲法学者らの寄稿や討論で「9条改正」問題を取り上げている。両紙とも15年の社説では9条改正問題に触れていた。
社説での9条に関する言及が少なくなっている背景を考えるうえで興味深いのが、日経社説の次のくだりだ。
「憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を限定解除したことで、現在の国際情勢に即した安保体制はそれなりにできた。9条を抜本的に書き直す必要はかなり薄らいだ」
これは、集団的自衛権行使の容認をめぐる一連の決定が、こと9条に関しては「実質的な改憲」に近いとの素直な判断を示したともいえる。