広島の新井貴浩が2000安打を放ったのは、もやもやしていたプロ野球に久しぶりの明るい話題となった。「努力の人」と評価され、今や「カープ女子」をしのぐ「新井ブーム」。青少年に好影響を与えるだろう。
「ファンが喜んでくれたのが最高にうれしかった」
2016年4月26日のヤクルト戦(神宮)で通算2000安打を記録した後、インタビューでそう語った。記念の安打は左翼左への2塁打で、チームの勝利に貢献した。
「まさか あのアライさんが...」
敵地なのに球場全体から祝福された。それは新井が練習に練習を重ねてきたことをファンが知っていたからである。
「まさか あのアライさんが...」
こう印刷された赤いTシャツの文句が野球人生を表している。新井は大それた記録を残すような選手ではなかった、というのが関係者の見立てで、だれもが記録達成、名球会入りに驚いた。
「ヘタクソな選手がよくここまできた、と思う」
新井本人がそう振り返っているくらいだ。広島の同僚や首脳陣によれば、センスのかけらもなかったらしい。
「投球の2バウンドを何度も振るんだよ。1バウンドなら仕方ないといえるけど、2バウンドだからなあ...」
「時たま当たるとデカい打球を飛ばす。宝クジに当たったような飛距離を飛ばすんだ」
プロ選手として目覚めたのは01年の出来事。最初の広島時代で、足の故障を理由に欠場した。代わりに出場した外国人選手にレギュラーの座を奪われた。
「骨折していないのなら試合に出るんだ。お前は休むことの怖さを知らなさすぎるぞ」
先輩の金本知憲(現阪神監督)の言葉である。金本は阪神に移籍すると、まさに骨折しながら出場して安打を放った。新井が金本を兄のように慕っているのが分かる。以後、新井は打法改造、ウエイトトレーニングなど、野球漬けの日々となった。05年に43本塁打でタイトルを取った。