ロック会場では耳栓をつけると急性難聴を防げる
日本にはまだ本格的な調査はないが、いくつかの耳鼻科医のウェブサイトをみると、「スマホ難聴」や「ロック難聴」がかなり増えているようだ。あるクリニックによると、年間の難聴患者数のなんと半数の49%が20代以下の若者だ。しかも男性が83%を占める。こんな例が紹介されている。
「24歳男性。右耳に『ワ~ン』『ボ~』とした音が聞こえ、反響する感じだといいます。また、両耳の中が詰まった感じで、圧迫感あり痛いといいます。勤務中以外の家にいる時や通勤中は、ずっとスマホで音楽を聞いているということでした」
「1日のうちに若い難聴の男性が3人来院されました。3人とも耳鳴りと耳閉感を訴えましたが、知り合いではなく、たまたま前日に当院の近くで行なわれた同じコンサートを聞いていました。何万人も入る施設に、大音響で行なわれたそうですから、かなりの難聴患者が出たことでしょう。うち1人は治療後も左耳が中々改善せず、耳鳴りの後遺症が残りました。座った席がステージに近く、左前方にスピーカーがあったとのことでした」
ロック会場での「耳鳴り」や「痛み」は「急性音響難聴」と呼ばれ、普通は帰宅して一晩眠れば治る。それが翌日以降も続くのは、内耳の中にある音を感知する「蝸牛」という器官に障害が起こっているからだ。人間は音を空気の振動(音波)で聞く。音の振動が鼓膜を動かし、それが耳小骨を伝わって内耳にある蝸牛をふるわせる。
すると、蝸牛の中の微細な毛がびっしりある感覚細胞が音波を感知するのだが、音が大きすぎると振動が強すぎて、蝸牛の血流を止めたり、感覚細胞を損傷させたりする。スマホで大音量の音を長い間聞き続けると、「ロック難聴」と同じダメージを内耳に与えてしまう。
では、どうすれば「スマホ難聴」や「ロック難聴」を防げるだろうか。専門医のウェブサイトでは、次のようにアドバイスする。
(1)スマホは連続1時間以上聞かない。1時間聞いたらヘッドホン・イヤホンをはずし、5~10分休む。
(2)ヘッドホン・イヤホンをつけていても外部の会話が聞こえる程度の音量にする。
(3)コンサート会場ではスピーカーのそばの席をとらない。
(4)音量が高すぎる場合は耳栓をつける。
耳栓については、2016年4月にオランダの大学がロック会場で耳栓をつけさせる実験結果を発表した。耳栓をつけなかった人は42%が急性の難聴になったが、耳栓をつけた人は8%しか急性難聴にならなかったという。耳栓をつけても音楽は楽しめるのだから、ぜひつけよう。