国連が「琉球・沖縄の人々」を先住民族として認め、先住民族としての権利を守るための法改正を求める勧告を出していることが、国会審議で「民族分断工作と言ってもいいようなこと」だとして問題視された。
日本政府が先住民族として認めているのは「アイヌの人々」だけだ。国連の勧告についても「事実上の撤回・修正」に向けた働きかけを強めていく考えだが、早くも沖縄県内のメディアからは米軍基地問題とリンクさせる形で反発の声が上がっている。
質問した議員は沖縄県が地盤
国連の人権規約委員会の勧告では、2008年には
「国内法によってアイヌの人々及び琉球・沖縄の人々を先住民族として明確に認め、彼らの文化遺産及び伝統的生活様式を保護し保存し促進し、彼らの土地の権利を認めるべきである」
と沖縄県民を「先住民族」だと認めることを求めた上で、14年には
「法制を改正し、アイヌ、琉球及び沖縄のコミュニティの伝統的な土地及び天然資源に対する権利を十分保障するためのさらなる措置をとるべき」
などとして必要な法改正を求めている。
この勧告を、自民党の宮崎政久衆院議員(比例九州)が16年4月27日の衆院内閣委員会で問題視した。宮崎氏は長野県上田市生まれだが、司法試験合格後は沖縄県に移住して弁護士として活動してきた。12年、14年の衆院選では沖縄2区から立候補し落選したものの、いずれも比例九州ブロックで復活当選している。
尖閣諸島の土地、天然資源の帰属も「問題にされかねない話」
宮崎氏は、沖縄県民の中にも自らが先住民族だと思っている人はほとんどいないと指摘した上で、勧告の内容を
「まことに失礼な話。言ってみれば、私の家に勝手に入り込んできて、うちは3人子どもがいるが、この子どもの1人に向かって『君たちは兄弟だと思っているかも知れないけれど、兄弟じゃないよ』という風に勝手に言われているのではないか、こういう印象すら受ける」
「民族分断工作と言ってもいいようなことを放置しないでほしい」
などと批判。特に14年の勧告については、
「尖閣諸島を含む沖縄の土地、天然資源がどこの誰に帰属するのかということを問題にされかねない話」
と警戒感を強め、
「私たち沖縄県民はまぎれもなく日本人で、先住民族ではない」
などとして国連に対して勧告の修正・撤回を要求するように求めた。
これに対して、木原誠二外務副大臣は、勧告を撤回させるプロセスは国連の中に存在しないとしながらも、次回の勧告のプロセスが来た際の対応について
「わが国の実情を正確に反映していない勧告・意見については、これまでも事実上の撤回・修正をするように、そのプロセスの中で働きかけを行ってきているし、これからもしっかりと行っていきたい」
と説明。新たな勧告が出る際には日本政府の意向を反映させたい考えを示した。
外務省の飯島俊郎参事官は
「沖縄に住んでいる人々は長い歴史の中で特色豊かな文化、伝統が受け継がれていると認識しているが、政府として先住民族として認識している人々は、アイヌの人々以外には存在しない」
と従来の政府見解を繰り返した。
琉球新報は米軍基地問題とリンクさせて論じる
一連のやり取りに異論を唱えたのが琉球新報だ。4月28日にウェブサイトに掲載された解説記事では、国連が規定する「先住民族」について、
「最も重要なポイントは、そこの土地はそもそも誰のものだったかという『土地の権利』だ」
と指摘。国連は、琉球王国がかつて主権国家として存在し、その後日本によって併合されて差別の対象になったことを認定したのに対して、日本政府は「公式には琉球王国の存在を確定的なものとして認めていない」という認識の隔たりがあるとした。その上で、先住民族の合意がない限り、先住民族の土地を軍事利用することを禁じた「先住民族権利宣言」を引き合いに、
「日本政府が沖縄の人々を先住民族として認めると、日本政府は米軍基地問題などこれまでの沖縄政策で多くの『不正』を是正せざるを得なくなることも、認めたくない理由の一つだろう」
と主張している。