ゴールデンウィーク期間中にお子さんを映画に連れて行く人が多いだろう。最近は洋画、邦画を問わずアニメ映画は3D(3次元立体画像)が花盛りだ。また、3Dのゲーム機やテレビも登場しているが、小さな子どもに見せても大丈夫なのだろうか。
専門家の間では、6歳未満は見せない方がいいという声が圧倒的だ。
フランスの政府機関は「13歳までは3Dを控えて」
日本のメディアはあまり報道しなかったが、2014年11月6日、フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)が、「3D画像を見ることは6歳未満の子どもは避けさせるべきだ。また、13歳までは『控えめ』にするべきだ」という勧告を発表した。ANSESは、国民の健康や食品の安全について多くの研究を行なっており、欧州各地の研究機関とも連携している組織だ。その理由については、のちに詳しく説明するが、大人の場合は目の調節機能が安定しているが、成長過程の子どもの目は、特に立体視のための機能が発達していないため、様々な目の障害が起こるという。
一方、日本ではどうかというと、家電メーカーら業界団体がつくる「3Dコンソーシアム」が2010年4月、「3D映像の安全ガイドライン」を発表している。その中に「低年齢層への配慮」という1章があり、子どもの目に与える影響について書いてある。幼児の目の機能の発達を「両眼立体視」「字の識別能力」など8項目に分け、それぞれが何歳までに成人並みになるかを表で示している。
最後に「立体視」が成人並みになるのが6歳前後だ。そして、「大人の管理のもとに視聴の可否判断をするのが望ましい」と記している。つまり、表を見る限り、目の機能がすべて成人並みに完了するのは6歳くらいだが、何歳から見せてもよいかは親が判断すべきと結論を投げ渡した形だ。
2012年10月に総務省が発表した「3Dテレビに関する検討会 最終報告書」の方になると、もう少し具体的だ。「6歳くらいまでの幼児は立体視の発達過程にあり、3D映像の観賞は注意する必要がある」と書いてあるが、特に積極的に教育機関などに指導を促しているわけではない。
おおむね日本では、6歳まではあまり見せない方がいいが、「あくまで親の判断に任せ、業界や当局は関知しない」ということのようだ。先述の「3D映像の安全ガイドライン」の中でも、映画館など施設側に「幼児が3D映画を見る際は、不快感などが生じる場合があることを観客に周知する」よう求めているが、ほとんどの映画館では「野放し状態」に近い。
「6歳から見てもよい」の根拠は1920年の古い学説
こうした傾向に疑問を投げかけたのが、教育現場から子どもたちの健康を支援する財団法人・日本学校保健会だ。同会会報「学校保健」の2011年8月号で、神奈川歯科大学眼科学の原直人教授が「3D映像が子どもの目に及ぼす影響」という論文を発表した。原教授は、3D映像が子どもの目に与える問題点として次の点をあげている(要約抜粋)。
(1)臨場感があり、めまいや吐き気などの映像酔いを起こす危険が高い。
(2)映像を立体視するためには眼球を寄り目にし、なおかつピントを合わせなければならない。自然の物を見る時は、両者の運動が一致して行なわれるが、疑似的な3D映像では「矛盾」が生じて「眼精疲労」の大きな原因となる。
(3)これは、こういうことだ。自然の状態では左右の目が同じ物を見て、右目で見た物と左目で見た物のわずかなズレから立体感を感じる。ところが、3D映像では左右の目に別々の映像を見せ、人工的なズレをつくる。
(4)3D映像の強い刺激を長時間見続けていると、人工的なズレに眼球運動が「適応」してしまう心配がある。現在、「6歳から見てもよい」としているが、これは「立体視は6歳以前に発達する」という1920年の学説に根拠を置いている。しかも、正常に発達した場合であって、10歳の少女が3Dアート書籍を見ているうちに物が二重に見えるようになった例もあり、何歳からよいかの線引きは難しい。
(4)3D映像を立体的に見るためには眼球を動かす様々な能力が必要だが、個人差がある。米国の調査では、18~38歳の成人でも約5%の人は調整ができないために立体的に見ることができず、また、約30%が見ることはできるが、頭痛や眼精疲労を訴えているという報告がある。
(5)だから、3D映像は全員が楽しめるものではなく、子どもは眼科を受診し、疾患の有無を確認してから見るよう教育現場で啓発すべきである。
以上が、原教授の警告だが、斜視の専門医のウェブサイトの中でもこんな指摘があった。
「現実の空間では両目で1つの像を見るが、3D映像では左右別々の像を見るため、両目で1つの像を結ぶ力が弱い人が3D映像を見続けていると斜視になる恐れがあります。斜視の素因があるかどうかは検診するとわかるので、専門医を訪れてほしい」
3D映像がすべて子どもの目に悪影響を及ぼすわけではない。むしろ最近は、弱視や斜視の子どもたちの治療に使われているほうだ。いずれにしろ、6歳以下の子どもは控え、心配のある子は専門医を受診した方がよさそうだ。