「6歳から見てもよい」の根拠は1920年の古い学説
こうした傾向に疑問を投げかけたのが、教育現場から子どもたちの健康を支援する財団法人・日本学校保健会だ。同会会報「学校保健」の2011年8月号で、神奈川歯科大学眼科学の原直人教授が「3D映像が子どもの目に及ぼす影響」という論文を発表した。原教授は、3D映像が子どもの目に与える問題点として次の点をあげている(要約抜粋)。
(1)臨場感があり、めまいや吐き気などの映像酔いを起こす危険が高い。
(2)映像を立体視するためには眼球を寄り目にし、なおかつピントを合わせなければならない。自然の物を見る時は、両者の運動が一致して行なわれるが、疑似的な3D映像では「矛盾」が生じて「眼精疲労」の大きな原因となる。
(3)これは、こういうことだ。自然の状態では左右の目が同じ物を見て、右目で見た物と左目で見た物のわずかなズレから立体感を感じる。ところが、3D映像では左右の目に別々の映像を見せ、人工的なズレをつくる。
(4)3D映像の強い刺激を長時間見続けていると、人工的なズレに眼球運動が「適応」してしまう心配がある。現在、「6歳から見てもよい」としているが、これは「立体視は6歳以前に発達する」という1920年の学説に根拠を置いている。しかも、正常に発達した場合であって、10歳の少女が3Dアート書籍を見ているうちに物が二重に見えるようになった例もあり、何歳からよいかの線引きは難しい。
(4)3D映像を立体的に見るためには眼球を動かす様々な能力が必要だが、個人差がある。米国の調査では、18~38歳の成人でも約5%の人は調整ができないために立体的に見ることができず、また、約30%が見ることはできるが、頭痛や眼精疲労を訴えているという報告がある。
(5)だから、3D映像は全員が楽しめるものではなく、子どもは眼科を受診し、疾患の有無を確認してから見るよう教育現場で啓発すべきである。
以上が、原教授の警告だが、斜視の専門医のウェブサイトの中でもこんな指摘があった。
「現実の空間では両目で1つの像を見るが、3D映像では左右別々の像を見るため、両目で1つの像を結ぶ力が弱い人が3D映像を見続けていると斜視になる恐れがあります。斜視の素因があるかどうかは検診するとわかるので、専門医を訪れてほしい」
3D映像がすべて子どもの目に悪影響を及ぼすわけではない。むしろ最近は、弱視や斜視の子どもたちの治療に使われているほうだ。いずれにしろ、6歳以下の子どもは控え、心配のある子は専門医を受診した方がよさそうだ。