ドジャース入りした前田健太の評判が投げるたびに上がっている。いまやエース格。このままいけば20勝も夢ではない。
いきなり3連勝。防御率は0点台というから驚きである。2016年4月23日のロッキーズ戦は日米通算100勝だった。
様子を見ての話というのが球団の姿勢
「知り合いからのメールで100勝と知った」
広島時代に昨(2015)年まで97勝。米国に渡ってあっさりと節目の数字を達成したというわけである。
「ケンタはすごいぞ」
ドジャースの面々は一様に驚きの声を挙げている。というのは、入団したとき、それほどの期待をかけていなかったからで、その理由は細い身体にあった。
それは契約内容に表れていた。
前田は「8年契約」だが、総額2500万ドルで、年俸にすると312万5000ドル(約3億4000万円)。勝利数などオプションをすべてクリアすれば、総額は1億ドルを超えるのだが、様子を見ての話というのが球団の姿勢だった。
他の日本投手の入団時の基本契約はどうか。
▽松坂大輔=レッドソックス、6年5200万ドル(1年870万ドル)
▽ダルビッシュ有=レンジャーズ、6年5600万ドル(1年930万ドル)
▽田中将大=ヤンキース、7年1億5500万ドル(1年2200万ドル)
少なくとも前田は「大物」どころか「確実に勝てる」というレベルの投手ではなかったことが分かる。
「彼はクレバーな投手だ」
ところが、前田はその3投手を上回るデビューを果たした。初登板ではホームランも打っている。
ドジャースのロバーツ監督はご機嫌である。
「彼はクレバーな投手だ」
たとえばロッキーズ戦だ。先発したコロラドのクァーズフィールドは標高1600メートルの高地で、空気が薄いところから打球がよく飛び、本塁打が出やすい「投手泣かせの球場」と知られている。
前田は立ち上がりからアウトを確実に取った。長打を防ぐため、徹底して低めを突いた。持ち前のコントロールで、しかも丁寧に投げた。このピッチングを見て首脳陣はうなったというわけである。
今後の期待が高まることは間違いない。もう2ケタ勝利は確実といってよく、打線の援護に陰りがなければ15勝、さらに20勝も見えてくる。
といってこのまま勝ち続けるとは思っていない。日本球界で投げた投手は開幕にベスト状態にするよう調整するので、スタートはうまくいくケースが多い。米国の投手、打者は開幕してから時間をかけて調子を上げて行くので、夏場にベストに持って行く。前田の調子が下がったころに打者の調子が上向くという格好になる可能性が出てくる。そこがポイントになるだろう。
「勝利数を積み上げていけるよう頑張る」
前田の活躍は頼もしい限りである。シーズン中に契約内容の見直しがあるかもしれない。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)