空前の猫ブームが広がる中、猫がもたらす経済効果は、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」になぞらえ、「ネコノミクス」と呼ばれるようになっている。関西大学の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)が今(2016年)春行った初の試算によれば、2015年のネコノミクスは年間計2兆3162億円にも達する。2020年の東京五輪がもたらす経済効果より大きく、侮れない効果といえそうだ。
宮本教授によれば、ネコノミクスの経済効果は猫の飼育費用や写真集の売り上げなどの「直接効果」と、直接効果から派生する「波及効果」の二つから計算できるという。
キャットフードや猫砂、ペット保険...
まず、直接効果の主なものは飼育にかかわるコストだ。猫1匹にかかるキャットフードの代金は月2348円、年間では2万8176円と推計。猫砂などトイレに必要な費用が月650円、年間約7800円と見込まれる。このほか、病気になった時の診療費やあらかじめかけておくペット保険などの平均費用が年間約4万5000円。
消臭スプレー代などの日用品も含めれば、1匹で年間11万1424円の計算になる。これに2015年の猫の飼育数約987万4000匹をかければ、計1兆1002億円余りとなる。
また、日本初の「猫の駅長」に就任し人気を集めた和歌山電鉄貴志川線の「たま駅長」を皮切りに、全国で猫の駅長や館長が出現、地域の観光客誘致につながった。「たま駅長」だけでも直接効果は年間11億1000万円に上り、観光分野での直接効果は全国で約40億円と推計している。
さらに、猫関連の本や写真集、映像の売り上げが年間約30億円になり、直接効果の総計は1兆1072億円余りに上る。
このほかに、都会を中心に猫カフェ(室内に放し飼いにした猫と触れ合う時間を提供する業態の喫茶店)も、全体像は不明ながら、大繁盛している。
総計2兆円を超える
さらに波及効果を計算する。直接効果が増えれば、それにかかわる原材料などの売り上げが増加する。例えば、ペットショップでキャットフードの売れ行きが伸びれば、キャットフードを作っている企業の売り上げが増え、キャットフードを入れるナイロン製の袋を製造している企業の売り上げも伸びる。加えて、ペットショップの収入が増えれば、経営者や従業員の給料も上がり、給料が上がれば、消費も増える。こうした効果をすべて推計すると、猫がもたらす経済効果は総計2兆円を超えるというのだ。
ちなみに、猫とは別の経済効果と規模を比べてみよう。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを合わせた東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)は経済効果が年間1兆円前後とみられ、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)は年間約5000億円とされる。猫の経済効果はこれら国内2大テーマパークの2~4倍という計算になる。また、2020年東京五輪の経済効果は、東京都などの試算では、建設業にかかわる約4700億円などを含め、2013~20年で計約3兆円というから、猫がもたらす年間2兆円超という数字が、いかに大きいかがわかる。
最近の猫ブームは、「たま駅長」人気から徐々に全国に拡大し、不景気や世の中の不透明感を背景に「猫にいやされたい」という思いの広がりが押し上げてきた、との見方が強い。犬の飼育数が増えない中、猫の飼育数は増え続け、今年中に猫と犬の飼育数が逆転する見通しとも言われている。ネコノミクスはさらに巨大化する可能性が高い。