2030年ごろまで向こう15年間の東京圏の鉄道整備の指針がまとまった。羽田・成田の両空港を結ぶ路線、都心から羽田へのアクセス線新設など8路線を重要な事業に位置づけている。国際都市としての魅力をさらにアップし、訪日外国人旅行者の急増に対応するとともに、「観光立国」を加速する狙いだ。
交通政策審議会(国土交通相の諮問機関)の小委員会(委員長・家田仁政策研究大学院大学教授)が、2016年4月7日に答申案を公表、パブリックコメントを経て20日に答申を了承した。
8路線を「国際競争力の強化に資するプロジェクト」と位置づけ
大前提として、訪日客の増加で東京圏の鉄道需要が高水準で推移するとした上で、国際競争力の強化や混雑緩和、まちづくりとの連携などを考慮して、個別のプロジェクトを評価した。その結果、24のプロジェクトの必要性を認め、財源の確保などの課題を示した。特に8路線を「国際競争力の強化に資するプロジェクト」と位置づけ、中でも利用者数が増えている成田・羽田両空港と都心を結ぶ路線など空港関連を重視しているのが特徴だ。
具体的には、まず、京成押上線と京浜急行本線に乗り入れて成田と羽田を結ぶ「都心直結線」だ。都心の地下にトンネルを掘り、京急・泉岳寺駅と京成・押上駅をつなぐ構想だ。羽田・成田間の所要時間が1時間以内になる可能性があるほか、リニア中央新幹線の品川もつなぐ路線として「期待」と表記した。
「羽田アクセス線」はJR東日本が検討する都心と羽田を結ぶ新線で、田町駅付近で東海道線と相互直通運転をするなど、都心や北関東と羽田の大幅な利便性向上につながると期待される。休止中の線路を活用し、早期整備が可能という。
東京急行・蒲田駅と京急・蒲田駅の約800メートルを結ぶ「新空港線(蒲蒲線)」は昨(15)年、都が「整備効果が高い」とした5路線からは外れていたが、今回の答申案で8路線に入って「復権」した格好だ。渋谷と羽田が30分で結ばれることになり、実現を訴えてきた大田区は「事業実現に向けて大きな後押しになる」(松原忠義区長)と歓迎している。
中央区が2015年6月にまとめた同区銀座と江東区有明地区を結ぶ地下鉄構想も8路線の一つに位置付けられた。答申案では東京駅まで延ばし、常磐新線と乗り入れる案も示されている。
「採算性に課題がある」の指摘も
8路線の残りは、京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設▽つくばエクスプレス延伸(秋葉原~東京)▽東京8号線(有楽町線)の延伸(豊洲~住吉)▽都心部・品川地下鉄構想の新設(白金高輪~品川)。
一方、「地域の鉄道網を充実させる」して、地域の成長のためのネットワーク拡充も掲げ、16の事業を挙げた。大江戸線や京葉線の延伸、混雑がめだつ京王線や小田急線の複々線化なども盛り込んでいる。
首都圏の鉄道整備に関する答申は、2000年以来16年ぶり。2000年当時は、「開業が適当」「整備着手が適当」「今後検討」という3段階で評価し、優先順位の格付けをした。だが、その後の規制緩和で国が整備を管理する法的根拠がなくなったとして、今回は格付けを見送ったため、意義があるとされても、すべての事業が実現するとは限らない。
そこで、問題は、やはり「財源」、そして「時間」だ。例えば「羽田アクセス線」は、既存路線を活用できるのが利点だが、それでもJR東日本の試算では、建設費は3200億円に上り、工期は10年と、完成は東京五輪・パラリンピックに間に合わない。他の路線も、新線には、千億円単位の巨額の建設負担が障壁となる。都市鉄道は国、地方自治体、事業者が概ね3分の1ずつを負担するケースが多いが、個々の事業について、費用負担の議論が煮詰まっているわけではない。今回の答申も事業によって「検討熟度が低い」「採算性に課題がある」などと問題点を指摘しているものもあり、個々の採算や需要などを精査していく中で、関係者の協議が難航する可能性もある。