観測史上初めて震度7の激しい揺れを2度も経験し、700回を超える余震を記録している熊本地震で、耐震補強したばかりの小・中学校が損傷した。
大規模災害の発生時に、小・中学校が地域住民の避難所になるケースは多い。熊本地震では避難所になった建物が損傷したために避難所を移った住民もあり、インターネットなどでは「国の耐震基準は役に立たない」などの声が漏れている。
耐震基準に2つの「数値」
国の耐震基準は、1978年6月に発生したマグニチュード7.4の宮城県沖地震を受けて、1981年に改正された建築基準法に基づく。震度5強の地震でほとんど損傷しないことや、震度6強~7の巨大地震でも倒壊や崩壊しないことを目安としている。
じつは地震に対する建物の強度を測る数値には2つある。一つは「is(アイエス)値」で、もう一つが「地震地域係数」といわれる数値だ。
「is値」とは「構造耐震指標」のこと。地震に対する「建物」の強度、靱性(変形能力、粘り強さ)を示す数値で、建物自体にかかる耐震の「判定指標」になる。国土交通省によると、「耐震性を高めるための改築・改修時に利用する数値」という。
is値は「0.6」が基準。住宅などの耐震診断や耐震補強の専門機関である日本耐震診断協会は、「0.6で、6~7の震度を想定しています」と話す。
震度6~7規模の地震に対して、is値が0.6以上の場合を「倒壊または崩壊する危険性が低い」建物とし、is値が0.3以上0.6未満の場合を「倒壊または崩壊する危険性がある」建物、is値が0.3未満の場合を「倒壊または崩壊する危険性が高い」建物としている。
日本耐震診断協会によると、「防災拠点となる小・中学校の場合は別途、文部科学省が『0.7』という全国共通の基準値を設けています」とし、熊本県教育庁も「小・中学校の耐震基準はis基準に則って(0.7で)整備しています。今回の地震で一部の小・中学校で損傷がありましたが、その基準は満たしています」と説明する。
熊本県にある557校の公立小・中学校(2014年度)のうち、耐震補強が済んでいる小・中学校は「耐震化率で、ほぼ100%になります」と、熊本県教育庁は話す。
それにもかかわらず、今回の地震で被害の大きかった熊本市内だけで16校の小学校と8校の中学校で破損が見つかり、危険と判断してその一部を閉鎖した。なかには、被災者がいったんは避難してきたものの、校舎の壁や床などに亀裂が見つかったことで、別の避難所に移ったケースもあった。
ただ、国交省は、今回の震度7の地震でも「ヒビ割れなどはみられたものの、倒壊や崩壊はしていません」とし、is値には問題がなかったとしている。
熊本県では「低く」設定されていた「地震地域係数」
一方、もう一つの数値である「地震地域係数」は、改築・改修時の判定指標となるis値の「目標値となる数値」(日本耐震診断協会)だ。国土交通省が「1.0~0.7」までの範囲内で定めていて、「1.0」で震度6強~7の揺れを想定している。つまり、地震地域係数が「1.0」ならis値の「0.6」に相当するわけだ。
地域係数について、国土交通省は「現在の係数は1981年の『新耐震基準』に基づいています。大きな建物などを新築する際の『構造計算』時に利用される、安全性をチェックするための数値です」と説明する。
この係数には、地域で起こる地震の頻度などを考慮しているため「地域差」がある。
「1.0」を基準に、たとえば0.7の沖縄県の耐震基準は、1.0の首都圏よりも3割低く設定されていることになる。
熊本県の地域係数も、これまでの地震の頻度などを考慮した結果、熊本市や阿蘇市、下益城郡などで「0.9」、八代市や宇土市などで「0.8」なので、首都圏よりも「低く」設定されている。今回の熊本地震で被災した大分県も別府市や竹田市は0.9で、杵築市や宇佐市は0.8だった。
ちなみに首都圏よりも地域係数が高いのは、1.2の静岡県だけだ。
もちろん、耐震基準を満たしていたからといって、それが「万全である」とも断言できない。1回の震度7の地震ではヒビが入っただけでも、2回もの震度7の揺れや、繰り返される余震で揺れぶられれば、基準を満たした建物だって安全とは言えなくなることはある。
ただ、各地域の耐震基準が、これまで想定した地震の頻度や震度と合わなくなってきているのではないか、という懸念が今回の熊本地震では浮上したことになる。
インターネットには、
「やっぱり震度でどうこうっていうのは、あてにならない気もする」
「震度6強でもいろんなケースがあるからな。どうなるかは建物にしかわからんのではwww」
「運が悪ければ倒壊としか言いようがない」
といった否定的な声に混じって、
「東日本(大震災)でも耐震補強があった建物は残ってたよ。基準は目安でしょ。やらないよりはやったほうがいいに決まっている」
との声も少なくない。