猫とふれあいながら飲食できる猫カフェ。東京都は猫の適正な管理を怠り、劣悪な環境で営業していたとして動物愛護法で墨田区「ねこのて」を全国で初めて業務停止を命じた。
この猫カフェ、一時期は6畳ほどのスペースに62匹もの猫を展示するなど、とんでもない経営をしていた。ここのオーナーは反省し都の指導に従っているというが、1カ月間の休業の後の再開については意欲満々だ。また同じような「虐待」を繰り返すのではないのか、といった心配の声が広がっている。
マンション6畳に62匹の猫、7割が病気に
東京都福祉保健局にJ-CASTニュースが取材すると、猫カフェで虐待が行われているという通報が頻繁に入るようになったのが2015年11月頃から。12月21日に訪問すると6畳ほどの展示スペースに62匹もの猫がいて、7割が病気にかかっていた。15年6月の登録では10匹だった。増えた猫の全てかどうかは分からないが、猫は去勢されていないため交配によって増えたのだろうという。都は16年2月に改善命令を出し、期間は3月26日までとした。オーナーは展示猫を10匹に減らすなどの努力はしたが、病気のままだったり、清掃がきちんと行われていなかったりなど、環境が改善していないと判断し、16年4月21日に1カ月間の営業停止を言い渡した。それまでいた62匹のうちの52匹は売ったという報告が都にあった。
実はこの猫カフェ、マンションの1室に10年6月オープンし、口コミサイトで見る限りは始めは評判はよかったが、ここ数年、テレビや雑誌で問題がある猫カフェだとして度々取り上げられていた。
15年12月15日に放送されたフジテレビ系「みんなのニュース」では潜入取材が行われ、カラオケの音が響き渡るビルの一室に36匹のネコがいた、などと報じられた。閉店すると隣の1畳半ほどの部屋に猫が15時間も閉じ込められる。部屋にはなぜか注射器や抗生物質が入っていると思われるコップが置いてあって、スタッフが飲ませたり点眼したりしている。ずっとくしゃみをしている猫もいて、番組はこの様子を獣医に見せると、
「猫カフェの中でアウトブレイク(集団感染)が起こっている」
などと語っていた。この店では猫のレンタルも行っているため、番組スタッフが借りていき、病院で治療した。それで「病気だった」と伝えると、店からは「それはうちの猫ではない」などと仰天の返事が返ってきたことも報じられている。口コミサイトを見ると、
「2年位前に行きましたが、管理されていない猫がわちゃわちゃいてすごく不衛生でした。そこらへんにいる野良猫をいっぱい拾ってきて一つの部屋に押し込めた、みたいなお店です」
「上京して初めて行きました。とにかく臭いに驚愕した覚えがあります」
などと書きこまれている。どうしてこんな営業をしていたのか。都の担当者は「経営者としての意識の低さ」をあげている。
動物愛護法は絵に「描いた餅」、処分に半年かかる
今回の業務停止処分に至るまで都に協力したのがNPO法人「東京キャットガーディアン」の山本葉子代表だ。J-CASTニュースの取材に対して、山本代表はまず、
「全国で初めて業務停止処分までこぎつけた都の職員の頑張りを評価したい」
と話した。都の担当部署には毎日「早くあの猫カフェをどうにかしろ!」といった訴えが数十件入ってきた。それを少ない人数で対応するとともに、22回もの立ち入り検査を実施し、指導してきた。一方で、「常軌を逸した運営」をしているのは明らかなのに業務停止まで半年かかった。これは都の職員の責任ではなく、動物愛護法はあるのだが強制力を行使する権限がなかったためだ。少しでも早く猫を救わなければならないはずなのに、動物愛護法はある意味絵に描いた餅のような存在になっていている、と批判した。
山本代表はオーナーとも会っている。改善命令が出た後に店に行くと、猫の一部は別の部屋に移動させられていた。その部屋はコンクリート床が剥き出しの崩れたような部屋で、エアコンもない。猫たちは凍え身を寄せ合って震えている姿を見たときは愕然としたという。
山本代表は、猫カフェの実態としてブリーダーが経営している事が多く、今回のオーナーもブリーダーという一面があった、と明かした。ブリーダーだからこそ去勢はしないまま猫の数が雪だるま式に増えていった。しかも、自分がブリーダーだという意識も知識もほとんどなく、店内には抗生剤を溶かしたものを置き、具合の悪い猫たちに飲ませたりするといったいいかげんな医療行為を行い、ほとんどの猫を病気にしてきた。そればかりではない。去勢していない多数の猫を放置することによって、やってはいけない掛けあわせで子猫を誕生させていた可能性がある。本当に52匹の猫を売ったとしたならば、それを知らずに買っている「被害者」がいる、という。
営業停止処分を「休業のお知らせ」とホームページ
今回の事件のようなオーナーはほかにもいるのだろうか。東京都によれば、猫カフェを含めた動物展示型のショップは10年3月末の167店舗に対し、15年は239店舗に増えた。これは全国的な傾向だ。山本代表はショップが増えることに比例して問題ある店舗も出て来るのは必至だと説明した。実は猫カフェは利益が出ない業態で「ニキビが潰れるより早く潰れる」と言われるほどなのだそうだ。そのためブリーダーなど他の本業を持ちながら出店することになるわけだが、猫カフェだけで食べていこうとする経営者はいる。そうした場合に猫の十分なケアが経費節減できなくなる可能性がある、と警鐘を鳴らす。
営業停止処分を受けた今回のオーナーだが、ホームページには、
「休業のお知らせ 2016年4月21日~2016年5月20日まで」
と告知している。22日付けのブログでは、
「今週は愛護センターさんがいらっしゃいました。いつもご苦労様です。当店は改善のため毎週愛護センターさんがいらっしゃりその都度良くなった点、まだ悪い点と指導、アドバイスをいただき、翌週までの改善を目標としています」
など、営業停止を「休業」と表現し、カフェの再開を目指している。本当に処分を解いても大丈夫なのだろうか。これについて、都の担当者は、
「状況を見ながら」
ということだけに留めた。「東京キャットガーディアン」の山本代表は、
「都が指導した要件を満たせば再開は間違いないでしょう。あなたには無理だから辞めるように言う権限は都にはないですし、再開した後はまた同じような事を繰り返さないように、しっかり見守って、逐次指導していくしかないと思います」
と話している。