三菱自動車工業が、軽自動車「eKワゴン」など4車種の合計で62万5000台(2016年3月末時点)の燃費性能を不正に、良くみせようとした問題は、「まだまだ続きがある」ようだ。
同社が2016年4月20日に公表したニュースリリース「車両の燃費試験における不正行為について」に、「そのほかの国内市場向け車両についても、社内調査の過程で国内法規で定められたものと異なる試験方法で行っていたことが判明した」と、不正行為を行った可能性のある車種が他にもあると明かしている。海外市場向けの車両も調査する。
不正行為は、測定方法と申告データの2点だが・・・
現段階で、三菱自動車工業が燃費を良くみせようとした車種は、いずれも軽自動車で、「eKワゴン」「eKスペース」の15万7000台と、同社が受託生産して日産自動車向けに供給している「デイズ」と「デイズルークス」の46万8000台の、4車種で62万5000台(2016年3月末現在)にのぼる。
4車種の燃費試験はいずれも三菱自動車が開発を担当し、国土交通省への認証届出責任をもっていた。同社によると、不正のポイントは二つ。一つは、国交省が燃費性能を測るうえで用いる「走行抵抗値」の試験方法が、国内法規で定められた惰行法による計測ではなく、「米国で走行抵抗を出す高速惰行法に類似していた」こと。
もう一つは、「室内試験機(シャシーダイナモ)」による測定で、自動車メーカーが自身で入力できる、クルマの走行抵抗(車両走行時のタイヤの転がり抵抗や空気抵抗、機械の摩擦抵抗など)のデータについて、本来は平均値を申告するところを不正に低く(甘く)申告したことだ。
これらの操作で燃費試験データの燃費を、実際よりも「5~10%」良くみせた。
しかし、2016年4月21日付の「CARVIEW」に緊急レポートを寄せた、元レーシングレーサーで自動車評論家の清水和夫氏は「たとえばタイヤの転がり抵抗と実際の燃費の影響に関しては、日本自動車タイヤ協会(JATMA)の資料ではその寄与率がモード燃費走行時で10~20%と報告されている。つまり、転がり抵抗を10%少なくしても、燃費は1~2%しか改善されない。わたしの所見では、三菱自動車が会見で明らかにした5~10%の燃費偽証は、走行抵抗だけでは達成できないはず」と指摘する。
燃費データをめぐっては、2015年9月に米国で販売されているフォルクスワーゲン(VW)とアウディのディーゼル車の一部が排出ガス規制をクリアするために違法なプログラムを使っていたことが発覚。VWの信用が大きく毀損したことは記憶に新しい。
もし、三菱自動車の不正行為が測定方法とデータの虚偽申告にとどまらず、クルマのエンジンを制御するプログラムにあったとしたら、VWの二の舞になりかねない。
実際の燃費だと、エコカー減税の対象に外れる可能性も?
なおも「続編」がありそうな三菱自動車の燃費不正だが、インターネットには、
「燃費データの不正なんて、VWだってやってたんだから(三菱自動車であっても)不思議じゃないし、他社がやってても驚きはないな」
「なにしろ、(三菱自動車には)リコール隠ぺいの前科があるからな。なにが起こってもおかしくない」
「エコカー減税が騒がれてから急に燃費がよくなった気がしてたけど、あれって間違いじゃなかったってことだよな。まだまだあるな、これは・・・」
などといった声がささやかれる。
いずれにしても、不正の背景に燃費性能の過剰な競争があったことは想像に難くない。燃費性能は、ユーザーのクルマ選びでも最も重視する項目だ。その燃費は、国土交通省によってカタログ燃費として規定され、その燃費を基にエコカー減税の税率区分が算出される。
たとえば軽自動車では、新規購入時にエコカー減税が適用されれば、自動車重量税や自動車取得税が「ゼロ」円だが、適用されないと合計で2万9900円かかる。1年後の軽自動車税もエコカー減税の対象車ならば5400円(通常は1万800円)で済む。
つまり、「エコカー減税」の対象になるかならないかで、クルマの販売に大きく影響するわけだ。
三菱自動車の「eKワゴン」のカタログ燃費は、ガソリン1リットルあたり29.2キロメートル。仮に不正行為によって実際の燃費が10%低くなっていたとすると、26キロメートル程度に落ちることになる。
同社は、「燃費が下がることでエコカー減税の基準を下回り、減税の対象から外れる可能性はないとは言えない」という。公表している4車種以外の車種も含め、減税対象から外れないまでも、税率は燃費性能によって変わってくるので、ユーザーは国や地方自治体から「差額分」を請求されることになる。
エコカー減税にかかわる補償について、三菱自動車は「その(請求があった)分は当社が負担します」と話している。