熊本地震の発生から1週間も経たないうちに、早くも永田町は2016年7月に予定されている参院選に向けて浮足立っている。野党の共闘体制が整わないうちに衆院解散に踏み切れば、与党が衆参ともに多数を確保できるとの見方がある一方で、地震を理由に安倍首相がダブル選を見送る公算が大きくなった、との報道も相次いでいる。
この問題は消費税率引き上げの再延期ともリンクするうえ、この週末には北海道と京都で補選が控えている。折も折、おおさか維新の会の片山虎之助共同代表から「大変タイミングのいい地震」との「失言」が飛び出し、謝罪・撤回に追い込まれた。
衆参同日選に消費税、そしてTPPはどうなるのか
通常国会会期末の6月1日に解散すれば、公職選挙法の規定により、7月10日のダブル選投開票が可能となる。ただ、一般的に解散には一応の「大義」が必要だとされる。「大義」にすることが可能だと与党内で指摘されているのが、17年4月に予定されている消費税率10%への引き上げ問題だ。これまで、政府は引き上げ再延期を検討する条件として「リーマンショックや大震災」「世界経済の大幅な収縮」を挙げてきた。記者会見や国会答弁を見る限りでは、地震発生後もこの見解は変わっておらず、表面的には予定通りに引き上げるという方針を維持している。
だが、今回の地震の発生で税率引き上げが一層困難になったとの見方が大勢だ。ダブル選となれば、復旧を急ぐ被災自治体への負担が増すことになり、政府・与党への逆風にもなりかねないためだ。4月24日には、参院選の前哨戦と位置付けられている衆院北海道5区と京都3区補選の投開票も控えている。
こういった様々な要素が関連した政治状況の中で飛び出したのが、片山氏の発言だ。片山氏は4月19日のおおさか維新の両院議員懇談会で、
「終盤国会になってから熊本・大分の地震が起こりまして、これがずっと長引いていますね。まあ、政局の動向に影響を加えることは確かなんで、例えばTPPの審議や採決...、当面はこの日曜日の補選にも影響がないわけではない。さらに言えばね、ダブルになるのかならないのか、消費税を上げるのか上げないのか、全部絡んでくるんですね。大変タイミングのいい地震」
と述べた。
菅官房長官「総理は『解散の「か」の字もない』と」
地震が様々な点で政局に影響することを述べる内容だが、地震が起きたこと自体を肯定的に発言しているともとられかねない。そのため、片山氏は直後に
「(衆院補選、ダブル選、消費税といった)政局の判断や国会日程に影響を与えかねない、政局的な節目に重なってしまった、という趣旨で発言をしました。言葉の使い方が不適切でした。誤解を招いたとすれば、お詫びし、その部分の発言を撤回します」
とするコメントを出し、発言を撤回。ツイッターにも4月20日になって
「私は、発生の時期が政局の判断や国会日程に影響を与える節目に重なった趣旨を申し上げたつもりでしたが不十分で、全く不徳の致すところです」
と書き込み、改めて謝罪した。
片山氏とすれば、今回の地震で、安倍政権が流動的だった政治的な懸案を一気に決断するきっかけにするだろうと言いたかったようだ。不透明だった政治状況の霧が晴れることで、おおさか維新としても政治的な戦略が練りやすくなったという気持ちが「タイミングのいい」という発言になったのかも知れない。
予想どおりというべきか、4月20日になって産経新聞(朝刊)や日経新聞(夕刊)が「首相、衆参同日選見送り」との1面トップ記事を掲載した。菅義偉官房長官は20日午前の会見で
「衆院解散は総理の専権事項で、総理は『解散の「か」の字もない』と(発言していると)いうことは、解散しないということだと思う」
と述べ、解散を改めて否定している。