今もなお、大きな揺れが続いている熊本地震の影響で、熊本県や大分県の観光地が大きな打撃を受けている。
書き入れ時のゴールデンウィーク(GW)を前に、ターミナルビルの天井が崩落した熊本空港(阿蘇くまもと空港)は2016年4月19日から一部が復旧。また、地震で脱線した九州新幹線は20日に新水俣―鹿児島中央間で運行を再開した。九州自動車道や九州中央道もまだ一部が通行止めのままだが、熊本県内外を結ぶ交通の大動脈は少しずつ動き出している。
熊本~阿蘇山麓、観光の「メインルート」
観光業は、熊本県の経済を左右する主力産業の一つ。今回の地震による、観光業への痛手はかなり大きそうだ。
熊本城は天守閣の瓦が崩れて「しゃちほこ」が落ちたり、「長塀」が崩れたり、現在も立ち入りできない状況にある。熊本県観光局は「熊本城は休園となっていますが、阿蘇地域などを含め、観光や宿泊施設の被害状況は確認しているところで、(観光への影響については)まだ何とも言えません」と話す。
地震の被害が大きい熊本市から阿蘇山麓にかけての地域は、熊本観光のいわば「メインルート」で、県内でも外国人観光客が増えている。阿蘇山麓の北に位置する熊本県南小国町の黒川温泉も、海外からも人気の温泉地だが、頻発する大きな揺れに不安を募らせる。
一方、大分県では、日本一の源泉数を誇る別府市や由布市の湯布院といった県内屈指の温泉地が心配された。4月17日には毎年恒例の「ゆふいん温泉まつり」が急きょ中止となったが、大分県防災センターによると、「県内の観光施設などについては一部で建物にヒビが入ったり、ガラスが割れたりしましたが、現在、営業を休止している施設はありません」と話す。
別府温泉の大型リゾートホテル、杉乃井ホテルでは、地震の直後には一部施設に不具合が生じたが、4月18日には施設の整備、安全点検を完了して、通常営業に戻った。
どうなる外国人観光客の動向
また、ゴルフ場や遊園地、ホテルを有する城島高原パーク(城島高原オペレーションズが運営)は2016年4月19日現在、安全確保のため、高所で遊ぶアトラクションを一部休止しているほか、キッズワールドを休園しているが、他のアトラクションやパビリオンは利用できる。
GWに予定している「妖怪ウオッチキャラクターショー」などのイベントも予定どおりに実施。運営会社は「地震直後は施設の点検や安全確保などに追われましたし、ホテルの宿泊客にもキャンセルがありましたが、現在はほぼ通常どおり。ホテルはGW中のキャンセルもありません。お客様も様子をみているといったところではないでしょうか」と話す。
今回の地震では、別府市や由布市でも一時、休業する温泉施設も出るなど、大きな被害が伝えられたが、「被害はそれほどではありません。GWまでまだ時間がありますし、観光客が安心して訪れるように準備したい」と話している。
熊本県観光局によると、熊本を訪れる観光客数は2014年に約5899万人を記録。このうち、日帰り客は約5206万人、宿泊客は692万人にのぼった。
なかでも、外国人の宿泊客数は13年と比べて14.3%増の48万3891人。熊本空港への台湾・高雄からの定期チャーター便の運航や東南アジアにおけるビザの要件緩和、円安の影響で増加。過去最高となった。国・地域別では韓国、台湾、香港からが多い。
観光客数の増加に伴い、観光による消費額も増加傾向にあり、2014年には約2918億円にのぼった。
「キャンセルがないわけではない」
とはいえ、長引く余震によって、観光や宿泊施設の安全確認もままならない状況が続いているところもあり、GW中に熊本県などを訪れる観光客の減少が懸念されている。日本経済新聞(2016年4月17日付)によると、中国外務省が中国国民に対して5月16日まで熊本県への渡航を禁じ、九州地方への渡航も慎むよう求めた、と報じた。韓国でも九州へのツアーを中止しているという。
「爆買い」の消費効果が期待できる中国人観光客らが来られないことは大きな痛手だ。たとえば、九州の小売業は2014年4月の消費増税後の購買意欲の落ち込みが一巡。インバウンド需要の拡大を「追い風」に時計や宝飾品などが売れて、ようやく回復の兆しがみえてきた。その矢先の震災で、中国人観光客らの「爆買い」消費への期待も大きくしぼんでしまう。
また、国内でも熊本県内へのアクセスが寸断されたままでは、「行きたくとも行かれない」。熊本県周辺へのツアーについて、ジェイティービー(JTB)は「キャンセル数についてはお話しできません」というが、「(キャンセルが)ないわけではありません」と話す。「基本的には、当社から(ツアーを)中止することはありませんので、いまは現地の情報を正しくお伝えすることを最優先しています」と、状況を説明する。
また、エイチ・アイ・エス(HIS)もキャンセルの状況については答えられないという。そのうえで、5月8日までの出発便のツアー(企画旅行)については「解除権」を付与して、手数料なしでのキャンセルに応じている。「ツアーの中止はありませんが、お客様のご要望に対して対応させていただいています」と話している。