「刑務所の近くに住んでいれば、いざという時に安心かもしれない」――。大地震に見舞われた熊本県で、全国で初めて刑務所が「避難所」として利用された事例を受け、ネット上ではこんな声が続々と上がっている。
刑務所や少年鑑別所といった矯正施設に収容される受刑者は、災害救助法の規定上、自治体の公的支援を受けることができない。そのため、全ての施設に受刑者と職員の1週間分の非常食が用意されているほか、救助用の工具や自家発電用の機材まで備える。法務省によれば、刑務所などは「災害時に自給できる体制が整っている」という。
避難所開放は、熊本刑務所の「独自判断」
熊本刑務所は2016年4月15日夜、施設内にある武道場を地震で被災した近隣住民の避難所として開放。備蓄していた食事の提供や飲料水の配給を始めた。16日未明に発生した地震の影響もあり、ピーク時には約250人もの被災者が詰めかけた。
もともと熊本刑務所には1週間分の食料が備蓄されていたほか、近隣の刑務所や法務局からも非常食や飲料水といった支援物資が届けられた。また、同刑務所では井戸水を利用していたため、断水の影響を受けることもなかった。そのため、一部の避難所で食料や生活用品の「不足」が叫ばれる中、安定した支援活動を行うことができたようだ。
熊本刑務所の担当者は16年4月19日のJ-CASTニュースの取材に、「今回は我々の独自判断で、住民の方々の避難先として武道場を開放しました」と答える。同刑務所は自治体が指定する災害時の避難所ではなかったが、近隣住民からの問い合わせを受けて今回の判断に至ったという。
こうした熊本刑務所の取り組みに対し、ネット上では「柔軟な対応」「素晴らしい」と称賛する声が相次いだ。また、ツイッターなどには、
「刑務所の近くに住んでいれば、いざという時に安心かもしれない」
「普段は収監する刑務所だが、災害時には避難施設としての活用は悪くないかも」
「敷地は広いし施設の自立性が高い。いいアイデアだ」
などと、「災害時の避難所」として刑務所を活用する動きが広がることに期待する声も数多く上がった。
そのほか、19日朝にはツイッターのトレンドワードに一時「熊本刑務所」が登場していたことを受け、「脱走したのかと思った」「脱走だと思ったら避難所開放だった」と勘違いする呟きも漏れていた。
刑務所は「災害時に自給できる体制」が整っている
法務省矯正局の広報担当者は4月19日、「刑務所や少年鑑別所といった矯正施設は、災害時に自給できる体制を整えています」と取材に対して明かした。その上で、
「刑務所などに収容されている受刑者は、自治体の公的支援を受けることができません。そのため、各施設では、職員と受刑者の1週間分の食料を備蓄しているほか、炊き出しにも利用される『レスキューキッチン』や自家発電用の機材、救助用の工具などを準備しています」
と説明する。また、受刑者を収容するといった施設の性質上、「建設当時の耐震基準を満たした上で、堅ろうな造りの建物が多いです」とも語る。実際、今回の地震を受けても、熊本刑務所は大きな被害を受けることはなかったという。
また、東日本大震災以降、災害時の避難所として刑務所などを利用するため、施設と自治体の間で防災協定を交わす動きが進んでおり、16年4月19日現在のところ全国14の施設で協定が結ばれている。今回の熊本刑務所のケースについても、法務省は「防災協定の締結に向けて熊本市と協議中だったため、近隣住民からの理解が得られたのではないか」とみている。
ネット上で「災害時の避難所」としての刑務所の働きに期待する声が出ていることについて、前出の熊本刑務所の担当者は、
「とにかく全国でも初めてのケースということで、関係各所の協力を得ながら手探りで進めているというのが実状です。今回の経験が、これからのモデルケースとなれば幸いです」
と話した。