九州・熊本県や大分県などの広い範囲で震度3~7の大きな地震が続くなか、現地に生産拠点を構えるトヨタ自動車やソニー、ルネサスエレクトロニクスなどが相次いで工場の操業を停止している。
これを受けて、2016年4月18日の東京株式市場では日経平均株価が一時、前週末から600円近くも値下がりして、1万6200円台の水準まで急落した。
トヨタ、全国の組み立てラインを停止 23日までの6日間
九州・熊本市周辺は、自動車産業をはじめ、半導体部品、液晶や画像センサーなどのスマートフォンなどを支える生産拠点として国内有数の集積地を形成している。
震災で、工場の生産ラインの停止や、調達や供給といったサプライチェーン(供給網)が寸断されたケースには、2011年3月の東日本大震災があるが、熊本地震でも製造業の多くが操業停止などに追い込まれた。なかには、長期化する恐れがあるとの観測もある。
熊本空港はターミナルビルの天井が崩落。日本航空や全日本空輸など、すべての便が欠航。復旧時期は未定だ。JRの九州新幹線や在来線も運休。九州自動車道や九州中央道の一部区間が通行止めになっているまま。流通が寸断され、部品の調達や供給が滞るケースが広がっている。
トヨタ自動車は2016年4月18~23日までの6日間、国内の車両組み立てラインを段階的に停止した。「レクサス」を生産するトヨタ自動車九州は16日から福岡県内の2工場を停止。19日からは、トヨタの主力のハイブリッドカー「プリウス」を生産する、愛知県内の堤工場や、レクサス製品をつくる田原工場などを順次停止する。20日には日野自動車の工場を、また22日には岩手県にあるトヨタ自動車東日本の稼働も見合わせる。
グループのダイハツ工業は、軽自動車を生産する大分県中津市の2工場と、エンジンを生産する福岡県久留米市の工場を18~22日まで停止。京都府大山崎町の工場も20~23日まで停止する。その後再開するかどうかは未定だ。
トヨタは16年2月、グループの愛知製鋼の工場爆発事故の影響で国内すべての車両組み立てラインを6日間停止した。今回の熊本地震に伴う工場停止による減産台数については、「現在精査中であり、公表していません」というが、2月の6日間の停止時には9万台に達した。
ソニー、スマートフォン向けカメラなどの工場を休止
さらに、トヨタグループのアイシン精機の子会社が被災。ドアやエンジンなどの部品の生産が止まっている。大きな余震が続いていることもあり、点検のための立ち入りもままならない状況で復旧が遅れている。工場の操業停止に伴い、同社からタイミングチェーンケースを調達している三菱自動車は、水島製作所(岡山県倉敷市)の車両生産ラインの4月18日夜間と19日の稼働を停止する。
二輪車を生産するホンダの熊本製作所(熊本県大津町)は22日まで生産を休止。また、日産自動車は子会社が運営する日産カードや日産カーライフ保険プランへの問い合わせなどに応じている熊本コールセンターの業務を、18日現在も停止している。
熊本県は、自動車や産業機器、スマートフォン向けに供給する半導体産業も集積。ソニーやルネサスエレクトロニクスなどの半導体メーカーの生産拠点が点在する。
ソニーは、熊本県菊陽町にある子会社のソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの、スマートフォン向けカメラなどに使われる画像センサーを生産する工場の操業を休止。ルネサスエレクトロニクスも、自動車向け半導体を生産する川尻工場(熊本市)の操業を、最初の激震があった2016年4月14日から停止している。生産停止が長引けば、別工場で代替生産することを検討するとしている。
「震災ショック」で日経平均は500円超急落
小売りや外食にも震災の影響は広がる。流通が滞って商品が入荷しないほか、店舗によっては商品が床に散乱したり、防煙設備が壊れたり、また天井の崩落などが懸念されるなど、安全が確保できずに店を開けられないでいる。
流通大手のイオンは2016年4月17日、熊本県と大分県にあるスーパーなど27か店を休業。また、コンビニエンスストアのローソンは熊本県内のうち、約3割の店舗を休業した。夜間に営業できない店舗も少なくない。ただ、スーパーやコンビニなどの一部では、店舗前の駐車場などで食品や水などの販売を続けている店舗もある。
ファミリーレストランの「すかいらーく」も一部の店舗で営業を見合わせている。
2016年4月18日の東京株式市場は、原油安と円高が加速したことに加えて、熊本市周辺の地震でトヨタやソニーなどが生産停止に追い込まれたことから全面安の展開となり、大幅続落となった。
日経平均株価は前週末から一時、593円83銭まで値下がりして1万6254円20銭まで急落。終値は567円17銭安の1万6280円86銭で引けた。
トヨタは273円安の5467円、ソニーは199円安の2736円だった。
ちなみに、東日本大震災直後(2011年3月14日)の株価は、震災が発生した3月11日から633円94銭安の9620円49銭。その翌15日は東京電力・福島第一原子力発電所の事故もあって、14日から1015円34銭急落の8605円15銭で引けた。
今後、震災による消費の自粛ムードの広がりなどによって、さらなる企業の生産活動の低下が進むとなると、企業業績への警戒感が募りはじめる。投資家がリスクを避ける姿勢をますます強めることになる。