2016年4月、熊本地震で自宅が被災し、避難を余儀なくされている人が約11万人に達している。
不便な避難生活が長引くと健康への影響が出てくる。症状が進むと深刻な病気になる恐れがあるが、体を動かすなどちょっとしたケアで防げるので、ぜひ対策法を知っておきたい。
できるだけ車中泊を避け、手足を動かす運動を
「自宅が壊れた、避難所が満杯なので入れない」「家は無事だが、余震が怖くて家の中にいられない」などの理由から、やむを得ず車中泊を続けている人が多い。座席を倒せばいちおう体を伸ばせるが、窮屈で寝返りもうてない。
ここで怖いのが、いわゆる「エコノミークラス症候群」だ。飛行機内で長時間狭い椅子に座ったままでいると血流が悪くなり、血液が固まる。この固まり(血栓)が、椅子から立ち上がり血液の流れがよくなった途端、肺や心臓の血管に達して詰まらせるのだ。突然死を引き起こす場合もある。飛行機の到着直後、エコノミークラスの客によく倒れる例が多いことから名づけられた。
熊本地震の発生直後から救急疾患に対応してきた済生会熊本病院心臓血管センター・循環器内科は2016年4月17日、フェイスブックで「初期は外傷による受診が多かったのに,次第に内科系の救急疾患が目立ってきた」と警告、特にエコノミークラス症候群の患者の増加を明らかにした。そして、予防法として次の方法を呼びかけた。
(1)出来るだけ車中泊は避け、手足が伸ばせる避難所を利用する。
(2)窮屈な姿勢でいなければならない場合でも、4~5時間おきに手足を動かす運動をする。
(3)こまめに水分補給を補給する。
(4)高齢者や太り気味、高血圧、心疾患や糖尿病、血栓症の既往のある人は特に注意する。
エコノミークラス症候群は、2011年の東日本大震災でも「震災後の被災死」として指摘された。ツイッターには「当時、家族が車中泊でエコノミークラス症候群を発症したので、今回被災した人は注意してほしい」との書き込みがあった。
厚生労働省では、東日本大震災発生後の2011年6月3日に発表した「避難所生活を過ごされる方々の健康管理に関するガイドライン」で、避難所での暮らしが長引いた場合もエコノミークラス症候群に注意するよう促した。ここでは、先述した済生会熊本病院の説明内容のほか、水分を取る際にアルコールやコーヒーは利尿作用があるため避ける、ゆったりした服を着る、禁煙する、といった点が有効だと説明している。
高齢者の口腔ケアに配慮、液体歯磨きを備えよう
避難所で長時間じっとしているのを避け、1日に何度か体を動かすことは、個人の心がけでできる。問題は、水の確保だ。熊本地震では4月18日現在も断水が続いている所が多い。給水所は、長蛇の列で数時間待ちも珍しくない。
一方で、給水所の場所によっては「列がほぼない」といった情報がツイッター上で出始めた。またJ-CASTニュースが4月17日に報じたように、清潔な湧き水を利用する動きもある。
とは言え、震災時に必要な水を手に入れるのは困難が伴う。水がないと歯磨きひとつとっても難しい。先述の厚労省「ガイドライン」では、歯磨きやうがいによる口腔ケアの重要性を指摘する。特に高齢者は、口の中が不衛生な状態が続くと、口内の細菌が肺に入り「誤えん性肺炎」につながる恐れがある。当たり前だが、「まさかの時」のために普段からの水の備蓄が望ましい。また、水がない場合の口腔ケアを考え、「液体歯磨き」を用意しておくこともオススメだ。口内を歯ブラシですすいだ後、吐き出せば水で洗わなくてすむ。