人生では様々な痛みや辛さを経験する。突然の事故もあれば、試験の不合格や療養中の身内の死など予想できる不幸もある。人間は予想していた痛みには、結構耐えることができ、むしろ先行き不透明の「不確実性」方が、ストレスが高い――そんな結果を示す研究がまとまった。
英ロンドン大学のアーチー・ドバーカー教授らのチームが、英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」(電子版)の2016年2月9日号に発表した。
「先行きの不透明」は「確実に来る痛み」より心身に悪い
人間は、将来何が起こるか分からない不安にいつもさらされている。「不確実性」が与えるストレスの研究は、これまでネズミに不規則に電気ショックを与える実験などが知られていた。
そこで研究チームは今回、人間を対象に巧妙な実験を編み出した。45人の被験者に協力してもらい、コンピューター画面に表示される2個の石の画像を見せ、どちらの石の下にヘビが隠れているかを当てて点数を競うゲームをした。石の下にヘビがいた場合は、予想は当たったのだが手の甲にハチに刺されたほどの痛みの電気ショックが加えられる。予想がはずれて石の下にヘビがいない場合は、電気ショックがこない。
つまり、被験者はたえず次のストレスにさらされるわけだ。
(1)どちらの石にヘビがあるかわからない不安(不確実性のストレス)。
(2)正しい回答をする(ヘビが現れる)と与えられる痛み(予想できるストレス)。
(3)回答を間違うと体に痛みは感じないが、予想できなかった不安(不確実性のストレス)。
さらにチームは、複雑な数理モデルを駆使し、被験者にヘビがいるかどうか予測する手掛かりになるパターンをいくつか作った。これらのパターンには完全に不規則なものと、経験を積むと予測できるものの2種類あった。人生同様に、「予想できる痛み」と「不確実な痛み」をつくったわけだ。