東芝と富士通、ソニーのパソコン(PC)事業から独立したVAIOの3社が検討してきたパソコン事業の「日の丸」統合に、暗雲が立ち込めている。
日本経済新聞が2016年4月15日付で「白紙に戻す見通しになった」と報じた。PC事業を統合したあとの、「成長戦略や生産拠点の統廃合などについて、折り合いがつかなかった」としている。
3社の「溝埋まらず」・・・
日本経済新聞は、2016年4月15日付朝刊で「パソコン統合交渉白紙 東芝・富士通・VAIO、溝埋まらず」の見出しをつけ、3社のPC事業の統合構想が「白紙の見通し」になったと伝えた。
報道によると、VAIOの約9割の株式を保有する投資ファンドの日本産業パートナーズや富士通が、現状では3社の統合による大きなメリットが見込みにくいとして、「交渉継続は難しいと判断した」という。
この報道に、東芝と富士通はそれぞれ、「PC事業については他社との事業再編も視野にあらゆる可能性を検討しているが、現時点で決まっていることはない」(東芝)、「PC事業については、さまざまな可能性を検討しているが、決定しているものはない」(富士通)とのコメントを発表。「火消し」を急いだ。
とはいえ、3社のPC事業の統合交渉が表面化してから4か月。共同出資で持ち株会社を設立して3社のPC事業を傘下に置き、各社のブランドを存続させる一方、調達などの機能を統合することで経営の効率化を図る案が有力視されるなどの情報は漏れ伝わるものの、当初の交渉期限とされた3月末を過ぎても合意に至らず、難航しているようすがうかがえる。
「白紙」報道を受けた15日の東芝の株価は、前日から値下がりしてはじまった。市場が開いた直後に、前日比8.4円安の221円まで値下がり。しかし、終値は0.7円(0.31%)高の230.1円で引けた。
また、富士通の株価も一時、前日比27.4円安の391.6円まで値下がり。ただ、こちらはその後も値が戻らず、終値で25.5円(6.09%)安の393.5円だった。
IT専門調査会社のIDCジャパンによると、2015年のPC出荷台数は、前年比31.4%減、前年から484万台少ない1055万台だった。国内シェアのトップは、NECレノボ・グループ(26.3%)。2位に富士通(16.7%)、3位は東芝(12.3%)、VAIOのシェアは1.8%(事業会社としてのVAIOは14年7月に発足)。3社の出荷台数は合計で324万3000台にのぼり、統合が実現すれば首位に立つ。
東芝は「国が助けてくれる・・・」
パソコン事業の統合のゆくえに、気が気でないのが東芝だろう。そもそも、東芝、富士通、VAIOの3社のPC事業の統合は、不正会計問題を受けた東芝の構造改革をきっかけに浮上した。
「ダイナブック」ブランドで、世界で初めてノートパソコンを発売した東芝だが、スマートフォンやタブレット型端末の普及によるPC市場の縮小に伴い、収益が悪化。さらにはPC事業の「利益水増し」まで発覚した。
東芝は2016年3月、経営再建に向けた事業計画を発表。不採算事業の見直しや益出しのための子会社売却、15年3月期に比べて3万4000人を削減するリストラ策を打ち出し、「17年3月期には、すべての事業の黒字化を果たす」(室町正志社長)としていた。
不採算部門の売却を急ぎ、成長領域のはずの医療機器子会社の東芝メディカルシステムズをキヤノンに売却。白物家電事業は中国・美的集団に売却した。
そうしたなか、PC事業は15年度中に4500人から3200人に人員を削減。4月1日付で分社化した「東芝クライアントソリューション」に、約2600人が移った(残り600人は、新会社に移管予定の中国の工場に在籍)。東芝としては、売却しやすくして、富士通やVAIOとの統合交渉に懸けていたとみられる。
もし統合が白紙になれば、事業統合や売却などの、新たな「相手」を探す必要に迫られる。また、事業計画も見直す必要が出てくるかもしれない。
ただ、企業アナリストの大関暁夫氏は、「白紙となれば、その責任は東芝の経営陣にある」と指摘。「経営再建が道半ばだというのに、医療機器や白物家電の売却で、なんとなくひと息ついてしまった感じがありますよね。無理して売らなくてもいいんじゃないか、シャープのときと同様に『日の丸統合』となると、国が助けてくれる、自分たちが潰れるわけがないと。おそらく経営者に危機感がないんですね」と話す。
一方、東芝はPC事業について、「決まっていることは、『6月までに決定する』ということだけです」という。