「長男後継」説をめぐって飛び交う社内外の風評
そこで注目されるのが、大株主で「物言う株主」として知られる米ヘッジファンド「サード・ポイント」が発した疑問だ。3月末、書面で「(人事案は)鈴木会長が次男の康弘氏(HD取締役、51)をやがてはHDトップに就ける道筋を開くためではないか」という趣旨の指摘をし、「血縁関係を理由に幹部を昇進させることは正当化されるものではない」と批判した。この指摘にうなずいた関係者は少なくないとされる。
康弘氏は2015年5月、HDの取締役に就任したが、その能力や経歴、社内での実績からみて、「大抜てきは不合理」(関係者)との見方も浮上した。そのため、「康弘氏後継説」が雑誌やインターネット上のコラムなどをにぎわし始め、サード・ポイントは、まさにその点を突いてきたわけだ。
ここ十数年にわたり、「セブン&アイの最大の懸念は後継問題」とも言われてきた。「流通の神様」とも呼ばれる鈴木氏の下で、鈴木氏のメガネにかなう後継者はなかなか生まれなかったためだ。有能な経営者に強く依存する体質が後継者育成の厚い壁になってきたともいえる。
そんな中で、にわかに持ち上がった鈴木氏次男の後継観測。鈴木氏は会見で「なぜ息子の話が出てくるのか。考えてもいない話を社内で言われるのは私の不徳のいたすところだ」と否定したが、「取締役に就けたこと自体、社内でも違和感を感じた者は多い」(関係者)のが実態だった。鈴木氏の真意は不明だが、「鈴木氏は、世襲に反対の立場をとっていた井阪氏が邪魔だったのでは」(業界関係者)との声も聞かれるように、「後継者」をめぐる一連の展開の中で、鈴木氏の社内の求心力は急速に低下していった。
鈴木氏を側近として支えてきた村田HD社長(72)も退任の意向を固めたとされ、後任のHD社長人事が最大の焦点で、井坂氏の昇格説がささやかれる一方、今回の取締役会では井坂氏解任に15人の取締役のうち7人は賛成したという事実もある。近いうちに指名・報酬委員会を開いて人事案を固め、4月19日の取締役会で決議することになっている。しかし、5月下旬の株主総会で新体制がすんなりと決着するかは、予断を許さない。