流通大手セブン&アイ・ホールディングス(HD)会長兼最高経営責任者(CEO)の鈴木敏文氏(82)が2016年4月7日に突然、辞任を表明したことは、社内をはじめ流通業界を大きく揺さぶっている。
世界からも評価される日本のコンビニエンスストアを育て挙げた鈴木氏は、いわば流通業界のカリスマ。退陣表明の背景は、社内の複雑な力関係がからみ合っているが、絶対権力者として君臨した鈴木氏の後継問題が大きく影響しているとの見方は強い。
鈴木氏はなぜ、井坂解任で強行突破を図ったのか
鈴木氏が辞任を表明した直接的なきっかけは、セブン&アイが7日に開催した取締役会で、鈴木氏が主導していた人事案が否決されたことだ。HD傘下の中核会社、セブン―イレブン・ジャパンの井阪隆一社長兼最高執行責任者(COO、58)を退任させようというもので、「セブン―イレブンの社長は最高7年任期でやってきて、井阪君も7年やった」という点のほか、「(井坂氏から)改革案はほとんど出てこなかった」ことなどが理由とされた。井坂氏の能力に見切りをつけたということだ。「おでん」をコンビニの人気商品に育て、銀行を設立してATMを配備するなど、次々に新機軸を打ち出し、成功させ、コンビニを成長させてきた鈴木氏にとって、「井坂氏は物足りなかった」と指摘する関係者の声は、それなりに納得できる。
この人事案否決を受け、鈴木氏は取締役会後に辞任を表明した。記者会見で鈴木氏は「(私が続投すれば)将来に禍根を残す」と説明した。ただし、「私の不徳の致すところ」の一言で、すべてを飲み込んで去っていくという、通常のスタイルとは異なり、恨みつらみを延々と語る異例の会見になった。鈴木氏は会見で、井坂氏が退任を一度は受け入れながら、2日後に撤回したこと、さらに、セブン&アイHDの株式の約10%を保有する創業家の伊藤雅俊・名誉会長(91)が井坂氏解任に反対したことなどまで語ったのだ。
そもそも井阪氏の人事をめぐっては、セブン―イレブンの業績が好調なことから、「交代する理由がない」と社内でも批判が上がっていたのを、鈴木氏が推し進めようとした。取締役会に先立つ「指名・報酬委員会」(鈴木氏、村田紀敏HD社長と社外取締役2人の計4人で構成)で、社外取締役2人が反対して「決定」できなかったまま、取締役会に諮るという強引さは、誰が見ても、首をかしげるものだ。なぜ、鈴木氏は強行突破を図ったのか。