カジュアル衣料品店チェーン「ユニクロ」の成長神話の陰りが鮮明になってきた。ユニクロを運営するファーストリテイリングは2016年4月7日、業績予想を大幅に下方修正し、16年8月期の純利益は従来予想を500億円下回る600億円とした。2015年8月期に比べ45.5%の大幅減だ。
翌4月8日の株式市場は業績への不安心理が拡大してファストリ株が急落し、市場全体も押し下げる「ユニクロショック」を引き起こした。成長を続ける数少ない日本企業の一つが、曲がり角を迎えている。
利益半減の業績予想に株価は急落した
「業績は不合格だ」。7日の記者会見でファストリの柳井正会長兼社長は険しい表情で、こう語った。この日は流通業界のカリスマ経営者、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)が内紛・権力闘争の末、自身の退任を発表という仰天のニュースが大きく扱われたため、ユニクロ失速のニュースはあまり目立たなかったが、お家騒動を抱えながらも業績自体は好調なセブンに比べ、ユニクロの実態はなかなか厳しい。
積極的に海外進出を進めるファストリだが、国内のユニクロはなお会社の根幹である。ユニクロの売上高は全体の半分近くを占め、営業利益ベースでは2015年8月期に3分の2程度を稼ぎ出した大黒柱だ。その国内ユニクロ事業に異変をもたらしたのが、2014年秋冬物で約5%、2015年秋冬物で約10%と2年連続で実施した値上げだ。原材料高や海外生産拠点の賃金増などでやむを得ない面はあったが、「高品質」と同時に「安い」ことが人々を引き付けてきたポイントだけに、少なからぬ消費者の離反を招いた。
この結果、夏物より単価の高い「ヒートテック」「ウルトラライトダウン」などの冬物でスタートダッシュを図るはずの2015年11月と12月に販売が失速。暖冬傾向も追い討ちをかけ、既存店売上高は上半期(2015年9月~2016年2月)に1.9%減となった。
値上げによって薄れた「格安」イメージを取り戻そうと、2016年1月と2月には値引き販売を強化。これによって売上高の大幅減は免れたものの採算が悪化し、利益を減らす主因となった。物流費や人件費もかさんだため、国内ユニクロ事業の上半期の営業利益は28.3%の減益となった。「かつて『猫の目バーガー』と揶揄されたマクドナルドを思い起こさせるような価格政策の失敗」(国内証券系アナリスト)との見方も出ている。
3月の既存店客数は8%減る
海外ユニクロ事業も苦戦している。売上高こそ積極出店によって12.7%増えたものの、米国や韓国の採算が改善せず、営業利益は31.4%減と落ち込んだ。国内ユニクロ、海外ユニクロとともにファストリ主要3事業の一つで、より低価格のトレンド衣料品を販売する「ジーユー」などの「グローバルブランド」が唯一気を吐いて増収・営業増益だったが、規模は相対的に小さいため、国内外のユニクロの不振を補うまでの力はない。
その結果、上半期の売上高は前年同期比6.5%増の1兆116億円と増収だったものの、営業利益は33.8%減の993億円、純利益は55.1%減の470億円となった。円高による為替差損が228億円発生したことも純利益の減少に響いた。
2016年8月期通期については、冒頭紹介したような形で業績予想を下方修正し、2期ぶりの最終減益を見込む。株式市場では不安感が強まり、4月8日のファストリ株の終値は前日比13%安の2万6610円と約3年ぶりの安値に落ち込んだ。これに先だって4月4日に発表された国内ユニクロの3月の実績も春物が苦戦してパッとせず、既存店客数は前年同月比8.6%減、既存店売上高も0.3%減と振るわず、光明を見い出せていない。
柳井氏は4月7日の記者会見で、この間の落ち込みを挽回するために「単純なプライス、より買いやすい値段にしたい」と述べ、さらなる値下げを示唆した。
ユニクロを去った消費者が再び足を運んでくれるのか、まさに正念場と言えそうだ。