東京都内のNPO法人が通販サイト「Amazon」を運営するアマゾン・ジャパン(東京都目黒区)にレビュー投稿者情報の開示を求めていた訴訟が決着した。東京地裁は、投稿者のIPアドレスや氏名、住所、メールアドレスを開示するよう同社に命じた。
匿名ユーザーの個人情報を開示するプロセスを「簡略化」した今回の判決。ネット上では、「至極妥当」「言論弾圧」とさまざまな反応が寄せられている。
2段階の手続きが1段階に
東京地裁の判決は2016年3月25日付けで下された。Amazonに投稿された本のレビューをめぐり、都内のNPO法人が「名誉を傷つけられた」「社会的評価が低下した」として投稿者情報の開示をアマゾン・ジャパンに求めた一件だ。地裁は投稿者の氏名や住所、メールアドレスの開示を命令。同社は控訴せず、4月8日に判決が確定した。日本経済新聞電子版(11日)などが報じた。
匿名ユーザーを特定する場合、基本的に2段階の手続きを踏まなければならない。サイト運営会社にIPアドレスの開示を請求し、その上でプロバイダ(接続業者)にも住所、氏名の開示を求める。
しかし、この方法は期間的にも費用的にもハードルが高い。それだけに、1段階での情報開示を認めた今回の判決を「至極妥当」「画期的」だと称賛する声は多い。
その一方、「『表現の自由』の障壁になりそう」「言論弾圧」といった心配の声も上がる。
情報開示請求のプロセスの簡略化は「言論弾圧」につながるのか。ネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に関する著書を持つ、神田知宏弁護士はJ-CASTニュースの12日の取材に「商品へのレビューは基本的に個人の感想ですので、不適切な表現を使わない限り適法です。損害賠償請求訴訟はもちろん、削除請求も発信者情報開示請求も受けません。その意味では、レビューの開示請求が言論弾圧ではないか、と心配する必要はないでしょう」と説明する。
また、今回のような判決内容も「異例」でなく「数はそれほど多くありませんが、過去にヤフオクや楽天などで似たような開示請求の裁判例があります。被告が実名登録サイトなら、プロバイダへの開示請求をスキップできます」という。
「顧客情報を管理していると認めた」
加えて、レビューをする際の注意点として「商品へのレビューにとどめ、出品者への個人攻撃をしてはならない」「商品のレビューは個人の感想にとどめ、裏の取れていない虚偽の事実や推測を書いてはならない」「個人の感想を書くにしても、不適切な表現を使ってはならない」の3つを挙げた。
神田弁護士は、それよりもむしろ「アマゾン・ジャパンが顧客情報を管理していると『認めた』ところ」に注目しなければならないと指摘する。
「従前、アマゾン・レビューの投稿者を特定するには米国本社(アマゾン・ドット・コム インターナショナル セールス インク)を被告にする必要がありました。米国本社を訴え直したという事例も過去に報告されています。ですがアマゾン・ジャパンは今回、自らをプロバイダ責任制限法の「開示関係役務提供者」(匿名ユーザーを特定するための情報を提供する主体)と認めました。この『認めた』という方針が今後も継続されれば、被害者救済に資するものと思われます」
米国法人と日本法人の関係性を浮き彫りにした、という点で今回の判決は意味のあるものだったわけだ。