大阪・堺市で1996年に発生した病原性大腸菌「O157」による集団食中毒で、当時の女性患者のひとりが、20年余の闘病生活の末、後遺症で亡くなっていたことが2016年3月明らかにされた。
女性がO157の感染によりかかった病気は、「溶血性尿毒症症候群」(HUS)と呼ばれ、5歳以下の子どもに多く見られる。後遺症により死亡したのは初めてで、改めてO157の恐ろしさがクローズアップされた。
腎臓の動脈が狭くなり高血圧、さらには脳出血に
堺市によると、1996年の集団食中毒の患者総数は9523人にのぼる。うち小学児童は、市外の患者も含めて7892人だった。感染した児童のうち3人が死亡している。
O157は、強い病原性を持つ「腸管出血性大腸菌」の代表的な細菌だ。家畜の糞便から水や食物を経由して感染すると、体内で「ベロ毒素」と呼ばれる強い毒素を出して激しい下痢や腹痛、発熱といった症状を引き起こす。さらに怖いのが、HUSだ。難病情報センターのウェブサイトによると、下痢が起こってから2週間程度で発症する恐れがある。血小板数の減少による出血症状や、溶血性貧血による全身の倦怠感、息切れなどを起こし、腎不全、場合によっては発熱や精神神経症状が出ることもあるという。
堺市が2016年3月30日に死亡を発表したのは、25歳女性だ。集団食中毒の発生当時小学1年生で、HUSを発症した。複数の報道によると、女性はHUSの後遺症で「腎血管性高血圧」と診断された。腎臓の動脈が狭くなり、高血圧につながる病気で、長年にわたって治療を続けてきた。しかし2015年10月、腎血管性高血圧が原因による脳出血で亡くなったという。
冬場でも感染力が強い細菌
O157の感染例は、実は全国各地で毎年報告されている。国立感染症研究所がウェブサイト上で発表した、O157を含む腸管出血性大腸菌感染症の発生動向調査(3月23日集計分)によると、2016年第1週(1月13日時点)~第11週(3月20日時点)の累計感染者数は、全国で135件。うち大阪府が最も多く27件で、東京都が16件、北海道9件と続く。食中毒の多い夏に多くなると考えられる半面、真冬でも発生数が多いのは、O157の感染力が強いためだ。
堺市の事例ほどではないが、集団感染は近年でもしばしば報告されている。2015年8月、島根県の私立益田東高校の寮で、O157に感染した人数は30人を超えた。
感染しても症状が治まる人が大半だが、長年後遺症に苦しみ、場合によっては長い年月が過ぎた後でも死に至るリスクがあることを、今回のケースは示した。O157を避けるには、当然ながら予防策の徹底が重要だ。食中毒を防ぐために手洗い、食材の冷蔵保存、十分な加熱、調理器具の洗浄や消毒といった点を常に心がけたい。