「保育園落ちた日本死ね!」の匿名ブログで一気に議論が燃え上がった待機児童問題。2016年2月15日に投稿され、J-CASTニュースが2月17日に報じるなど、ネット上では早くから注目が集まり、野党が政府を批判するようになった。
当初、安倍晋三首相が2月29日の衆院予算委員会で「本当かどうか確認しようがない」と冷やかに答えたことが世論の不興を買ったことから、政府も態度を変え、3月9日には塩崎恭久厚生労働相が母親たちとの面会に応じて署名を受け取り、政府として緊急対策をまとめる動きにつながった。そして、新聞もようやく、この問題を大きく取り上げるようになった、各紙の社説の論調には微妙な違いも浮かび上がった。
目を引いた「産経」と「読売」のスタンスの違い
真っ先に取り上げたのは3月12日の「毎日」。「親の怒り、政治を動かす」と、ブログの問題提起を前向きにとらえ、政府に「謙虚に親の怒りを受け止めるべきだ」と反省を求めた。次いで13日には「朝日」も「『女性活躍』を言うのなら、まず現実を直視することから始めてほしい」と注文。続いて「日経」(16日)は「女性の活躍」を占う「試金石の一つが待機児童の解消」と位置づけ、保育の受け皿拡充、その担い手である保育士不足対策を主張するほか、「仕事と子育てを両立できるようにするためには、硬直的な長時間労働の見直しなどの、働き方改革が必要だ」と論点を広げ、保育所不足に十分手が打てていない政府への「批判色」はやや落としている。
世論に押され、3月28日には政府が緊急の対策を発表した。主な中身は、(1)現在19人以下とされている小規模保育所の定員を22人まで増やす、(2)自治体が独自に「1歳児5人につき保育士1人」 としている基準を国の基準に合わせて「6人に一人」に緩和する――というもので、国が自治体に規制緩和を「要請する」だけの内容だ。当然だが、何年にもわたって指摘されながら解決できない問題だけに、国として即効性がある「特効薬」などあるわけでないことを、改めて確認した格好だ。
これを受け、各紙の社説が出そろう。
政府の対策の中身は発表前にあらかた報じられていたことから、「毎日」は発表に先立って27日、「既存の施設に乳幼児を詰め込むような小手先の案が多く、これで親たちの怒りや不安が静まるとは思えない」と政府の対策を批判し、「緊急対策とは別に子供本位の抜本的な改革」を要求。朝日も30日、「子どもたちや現場の保育士にしわ寄せがいかないか」と同様の懸念を示した。
一方で目を引いたのは、日ごろ、安全保障政策や憲法改正などで安倍政権を支持する論調が目立つ「産経」と「読売」が、待機児童問題では真っ二つに論調が割れたことだ。
「産経」は31日、社説に相当する「主張」で「国政選挙を控え、急ごしらえで対策をまとめた印象は拭えない」と喝破し、「受け皿の拡大を急ぐあまり、保育士の負担が重くなり、保育の質の低下を招くのではないか」と指摘した。他方、「読売」(30日)は、小規模保育所の定員引き上げを「有力な受け皿」と評価。認可保育所についても「増設には時間がかかる」ことを理由に、「規制緩和で受け皿を確保するのは理解できる」と政府を評価する主張を貫いた。「産経」は匿名ブログに触れたが、「読売」はブログに言及もせず、この面でも、ブログに不満タラタラの自民党に歩調を合わせた形だ。