深刻な人手不足への対応として、政府や与党で「外国人材の活用」の検討が具体化してきた。政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で安倍首相が検討を指示、自民党も「労働力の確保に関する特命委員会」の議論をスタートさせた。ただ、外国人の労働力としての受け入れには慎重論も根強く、すんなりと議論が進みそうにない。
高齢化が進み、生産年齢人口は2012~2015年で335万人減っており、2035年までの20年でさらに約17%減る見通し。人手不足は農業、製造業、建設業や子育て・介護の現場などでも深刻だ。日本の労働力に占める外国人比率は2%と欧州(10%)、米国(16%)に比べ突出して低く、経済協力開発機構(OECD)は2015年4月の「対日審査報告書」の中で、労働力不足の問題を優先度の高い政策として挙げ、女性の登用とともに外国人を活用すべきだと提言。経済界も「経済の活力を維持するためには、外国人材の受け入れ促進が急務」(榊原定征・経団連会長)と主張している。
外国人研修生の実態
先の3月11日の諮問会議では、伊藤元重・東大教授(当時)ら民間議員が「(GDP)600兆円経済の実現に向けて」とするペーパーを出し、賃上げや女性・高齢者の就労促進などと並んで、「外国人材の活用」を1項目立てた。この中では、特に建設業を取り上げ、「政府は2020年度までに延べ7万人程度の外国人の受入れを想定して、2015年度から緊急受入措置を開始。しかしながら、2016年2月までの受入れ実績は293人にとどまっている」として、「即戦力」として外国人材の活用を進めるよう訴えた。会議で安倍首相は「現場の状況をつぶさに把握して、課題解決に向け大胆に取り組んでほしい」と、関係閣僚に対策強化を指示した。
こうした政権の意向を受け、自民党でも3月15日、外国人労働者の受け入れ拡大を議論する「労働力の確保に関する特命委員会」の初会合を開催。木村義雄委員長は「労働力をしっかりと確保し経済成長を確実なものにしないといけない。長年のタブーだった労働力として外国人に活躍してもらおう」と訴えた。特命委は規制緩和策などを検討し、4月末までに政府への提言をまとめる予定だ。具体的には、受け入れる職種拡大や、在留期間の延長などを検討するという。
日本は従来から、IT技術者や調理師といった「専門的・技術的分野」の外国人を受け入れてきたものの、それ以外の「単純労働者」などは受け入れないというのが基本姿勢。一方で、外国人が日本で働きながら技術を身につける外国人技能実習制度があり、農家や工場などで受け入れており、実質的には「労働力」として活用されている。肉体的にきつい農作業や建設現場では「外国人の研修生がいないと生産が維持できない」(大手新聞社記者)という現実がある。それでも建前は、あくまで外国人の技能習得が目的だ。
移民政策には踏み込まない方針だが...
首相や木村氏の発言は、外国人を明確に「労働力」と位置づけて受け入れようとするもので、ここまで踏み出さざるを得なくなったのは、現行制度が限界にきているからだ。技能実習には、実質的に労働力として活用しているにもかかわらず、不当な処遇や低賃金が国際的に批判されている。厚生労働省と法務省はここにきて重い腰を上げ、対応に動き始めた。
年明けに、2016年中にも監督組織として「外国人技能実習機構」を設け、受け入れ企業に届け出を義務付け、賃金水準など日本人と同等以上の待遇を求め、違反すれば罰金や行政処分の対象とする方針を打ち出したが、「研修」の建前にこだわれば、実態とのかい離は埋めきれない。企業側からは、「せっかく鍛えて戦力になった優秀な外国人でも、3年なりの年限が来たら帰国しなければならないなど、極めて不合理」(あるメーカー関係者)といった不満が高まっている。
ただ、議論がどう進むかは、予断を許さない。自民党など保守派、右派は元々、外国人が増えることに消極的。特に、労働力として受け入れるのはまだしも、永住資格などにつながる移民受け入れには拒否感が強く、安倍首相自身、「移民政策を取らない」と国会でも明言している。ただ、石破茂・地方創生相が講演やテレビ番組で「移民を受け入れる検討」の必要を述べているように、本格的な人口減対策として、移民容認論も根強い。
諮問会議も、自民特命委も、移民政策には踏み込まない方針だが、「外国人を安易に使おうというだけでは、むしろ文化の面で摩擦を生むなど、日本の国際的な評価を落としかねない」(全国紙社会部デスク)との声もあり、議論の行方が注目される。