カリスマ経営者、鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO、83)がグループ経営から退くことになった流通大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)。
2016年4月7日に発表した16年2月期連結決算は、営業利益は3523億円と5期連続で過去最高を更新。加盟店売り上げを含めたグループ売上高は10兆円を超えていた。まさに絶好調の中での突然の引退表明に、株価も大きく乱高下したが、「カリスマ」が消えた途端、株価は急騰したことに市場の見方が現れていた。
株価は7日に年初来安値の後、1日で600円上昇
セブン&アイHDの鈴木敏文会長といえば、日本のコンビニエンスストアのいわば「生みの親」で、「セブン‐イレブン」を成長軌道に乗せた立役者。いまやセブン‐イレブンは、46の都道府県に1万8572か店(2016年2月末時点)を展開。国内のコンビニでは首位を走る。
2005年9月に発足したセブン&アイHDは、そのセブン‐イレブンを中核に、総合スーパーのイトーヨーカ堂、百貨店のそごう・西武、通信販売のニッセンホールディングス、ファミリーレストランのデニーズ、セブン銀行などを傘下にもつ。それを一代で、巨大な流通グループに押し上げた。
そんな鈴木会長が2016年4月7日、5月下旬に開催予定の株主総会までに辞任することを明らかにした。
同日開かれたセブン&アイHDの2016年2月期連結決算の会見に、急きょ出席した鈴木会長は席上、「私の不徳のいたすところです」と、繰り返した。
鈴木会長は、セブン‐イレブン・ジャパンの井阪隆一社長兼最高執行責任者(COO、58)を解任する人事案をまとめていた。井阪社長解任の理由について、鈴木会長は「社長職が7年と長いこと」をあげたが、「残念ながら、改革案はほとんど出てこなかった」とも漏らす。
ただ、井阪社長の積極的な出店攻勢などでセブン‐イレブンの業績が好調だったこともあり、井坂社長の評判は必ずしも悪くなかったようで、鈴木会長の人事案は受け入れられず、結果的に、7日の取締役会でも過半数の賛成を得られなかった。
鈴木会長は、人事案に反対票を投じた取締役がいたことなどから「自身への信任がなくなったと判断した」と語り、人事案を主導した責任をとって退任を決めたとみられる。
加えて、セブン&アイHDの株式の約10%を保有する大株主で、創業家の伊藤雅俊・名誉会長らとの溝も生じたようで、絶大だった影響力にほころびが出はじめたこともうかがえる。
こうした経営トップをめぐる混乱を背景に、セブン&アイHDの株価は投資家らの動揺を映した。2016年4月8日、セブン&アイ株は4日ぶりに反発。一時、前日比239円高の4789円まで高騰。前日には4168円の年初来安値まで値下がりしていたため、わずか1日で600円超も上昇したことになる。8日の終値は、166円高の4655円で引けた。
この動きに、ある個人投資家は「トップ人事だけに、経営陣のあいだで経営方針に食い違いがあることがわかり、『どうなっているんだ』ということになったのでしょう。それで嫌気がさして一たんは引いてみたが、経営状態はそれほど悪くない。実際の数字が発表になって買い戻した、といったところでしょう」と推察する。
事業を拡大していく能力と、事業を継続していく能力
インターネット上では、
「コンビニの頂点に立つ男か。おつかれさんでした」
というねぎらいの声もあるが、
「やっと、老害が消えるかwww」
「自分の出した人事案が否決されたんだから、もう居場所がないだろ」
「世襲否決。変化への対応しっぱいw 」
といった見方も少なくない。
なかには、業績好調とはいえ、けん引しているのはセブン‐イレブンやセブン銀行などの一部にすぎず、イトーヨーカ堂やそごう西武の伸び悩みやM&A(合併・買収)で傘下に収めたニッセンなどが経営の足を引っ張っているのが実情。その姿を「迷走」と受けとめている人も多いようだ。
「柏(そごう)や旭川(西武)も閉めたしな。ヨーカ堂もな・・・」
「えっ、このタイミングなの? 一応、業績はいいからカッコだけでも勇退ってことかな」
といった声も寄せられている。
企業アナリストの大関暁夫氏は、「どんなに優秀な経営者でも、老害は頭をもたげてくるもの。鈴木会長ほどの人でもそうなるということです」と話し、「引き際が遅かった」と指摘する。
そのうえで、「マネジメント力は、基本的に事業を拡大していく能力と、事業を継続していく能力は別ものと考えたほうがいいでしょう。たとえば社長が交代しても、会長で残ると周囲はどうしても会長の顔も立てようとしますから、結果的に組織がなにも変わっていないという事態が起こります。カリスマ経営者にありがちですが、自分のスタイルにこだわらずに、早く手を打つことが大事。まして大手企業であれば、『自分と同じタイプ』がいなくても、組織力で補えることもありますから」と、説明している。