人工肛門の保有者が、公衆浴場やプールに入るのは「マナー違反」なのか――。いま、こんな話題がネット上で大きな注目を集めている。
「オストメイト」と呼ばれる人工肛門の保有者は、腹部に着用したビニール製の袋に排せつ物をためている。脱臭性や耐熱に優れた袋の構造上、入浴にも問題はないというが、ツイッターやネット掲示板では「これはちょっと嫌だ」「生理的に無理」と抵抗感を示すユーザーが少なくない。こうした一般の意識が利用の大きな壁になっているようなのだ。
人工肛門は「一般の方よりも清潔」
「オストメイトの方が入浴施設やプールなどで利用拒否されるという事例は、確かに存在します。私が相談を受けた実例では、施設側が『なんで来るんだ』などと拒否されたり、別の客から『利用を控えて欲しい』と直接言われた人もいるようです」
オストメイトを支援する活動を続ける「日本オストミー協会」の事務局長は、2016年4月6日のJ-CASTニュースの取材にこう答えた。
その上で、排せつ物をためる袋は構造上入浴や運動をしても全く問題ないとして、「正しく利用していれば、一般の方よりも清潔だと断言できます」とも語る。実際、厚生労働省の生活衛生課が2015年2月に告示した「浴場業の振興指針」でも、「衛生上問題ない形で入浴サービスを楽しんでいただくことは可能」だと明記されている。
さらに、厚生労働省の生活衛生課は、「オストメイトの入浴を拒否することは、法的に適切とはいえません」とJ-CASTニュースの取材に答える。その理由については、
「公衆浴場法では、営業者が入浴を拒否できるのは伝染性の病気など衛生上の問題がある場合だけだと定められています。オストメイトの方は『衛生上問題ない』と認識しておりますので、営業者が利用を拒否することは適切ではありません」
と説明した。
全国浴場組合は「お断りしない方針」
日本オストミー協会はオストメイトへの理解や周知を求める運動を続ける一方で、会員には「入浴時のマナー」を啓発している。具体的には、1泊2日で実施される研修旅行で、「入浴前には新しい袋に交換する」「袋が目立たないよう、肌色の保護シールを利用する」といったマナーを徹底するよう呼びかけている。
ただ、ツイッターやネット掲示板などでは、「透明の袋で入浴する人もいるってこと?」「腸とか排泄物が見えてしまうのはどうなの」といった声が出ていることも確かだ。こうした意見が存在することを事務局長に伝えると、
「もし貴方が人工肛門を利用することになった際、自分の排せつ物をためた袋を、他人に見られたいと思いますか?」
として、「本人が一番、他人に気づかれたくないと思っているんです」と訴える。その上で、多くのオストメイトは先述の基本的なマナーに加えて、「浴場が空いている時間を選んで入る」「消化が活発な時間は入浴を避ける」などの配慮に努めているとも明かした。
では、入浴施設側は「オストメイトの利用」をどう捉えているのだろうか。全国2800以上の公衆浴場が参加する「全国浴場組合」は、4月6日のJ-CASTニュースの取材に、
「当組合では、オストメイトの方を『お断りしない』という方針を明確にしています。ですが、実際の判断は現場任せで、他のお客様が苦情を寄せる可能性があるといった理由で、オストメイトの方の利用を断っている店舗もあるようです」
と現状を語った。