2016年4月5日、早稲田大学の大隈庭園(東京都新宿区)の脇にそびえ立つリーガロイヤルホテル東京の前には大勢の報道陣が詰めかけていた。複数の女性との不倫問題が報道され、謝罪した作家・乙武洋匡氏の40歳の誕生日を祝う会(「乙武洋匡を囲む会」)が催されたためだ。
謝罪後初の公の場とあり、玄関前には開始時刻の2時間前には約50人の報道陣が集結。多い時には70人以上にものぼり、会の関係者が対応に追われたり、警察官が出動したりと、周囲は異様な雰囲気に包まれた。
「この場所でのご取材はお控えいただけたら...」
誕生日会は、以前から企画されていた。本来は今夏の参院選出馬を報告する場ともみられていたが、3月下旬に複数女性との不倫を「週刊新潮」に報じられ、これを認めたことで事態は急変。急きょ「反省会」へと変わった。
会は非公開だったが、不倫発覚後初めての公の場とあってマスコミが殺到した。開始2時間前の17時時点で約50人が集まり、入口付近でテレビカメラやスチールカメラを構えた。「誰が出てくるんですか?」と質問する通行人や、もの珍しそうにスマートフォンで撮影する外国人宿泊客もいた。
こうした状況を受け、会の関係者が報道陣を集めて今後の予定を説明。会終了後に本人が公式コメントと写真を出す予定であることを告知した。
乙武氏はすでにホテルに到着していることも明かし、「ホテル側からご取材NGと言われていることがありまして、この場所でのご取材はお控えいただけたら...」と対応に追われた。ホテル前の歩道は狭く、途中には警察官まで出動するほどだった。
会には、発起人として報じられていた社会学者の古市憲寿氏(31)や元陸上競技選手の為末大氏(37)のほか、ジャーナリストの田原総一朗氏(81)、脳科学者の茂木健一郎氏(53)、元東京都知事の猪瀬直樹氏(69)、実業家の堀江貴文氏(43)、タレントの神田うのさん(41)らが次々と駆け付けた。会関係者の発表によれば、約250人が集まったという。
田原氏は次の予定があったのか、開始30分ほどでホテルから出てきた。報道陣から乙武氏の様子を聞かれると「神妙だった」とのみ答え、タクシーで去った。茂木さんは会終了後に更新したブログで「ホテルがたいへんな状況だったので、古市くんと一緒に、地下から出ました」と明かしている。
為末大「この苦しい状況での会は絶対やるべき」
乙武さんは会終了後、「約束」どおり公式コメントを発表した。
インタビュー形式の映像で、濃紺のスーツとネクタイをまとった乙武さんの姿が映っている。感想を聞かれると、ゆっくりとした口調で「本当に、これだけ多くの皆さんに支えられているんだなあということを、心から実感することができました。どれだけ感謝してもしきれません」と述べた。
今後の予定は「全くの白紙」。「自分の弱さというものを、しっかり断ち切って、とにかく家族と穏やかな時間を、最優先に過ごしていきたいというふうに思っています」と話し、車いすでその場を後にするまでが映っていた。
しかし、ネット上では誕生日会を予定どおり開催したことに対し、「よく出来るね」「浮かれてる」といった疑問の声も相次いだ。
こうした指摘が出ることは、もちろん本人も承知していただろう。スポーツ報知電子版が6日に配信した「あいさつ要旨」によると、乙武氏は中止を何度も考えたことを明かしつつ、騒動を謝罪して「カツ」を入れてもらう場にしたいと思い至ったそうだ。
「浮ついた思いではなく、明日から人生の後半戦。その再生の場となるよう、新たに生きていく誓いの場としたく思いました」
と語ったという。
為末氏は6日のツイッターで「正直なところ、誕生日会を開催すると聞いた時にはまあよくある感じだろうし、行ってみるかという程度だったけれど、スキャンダルが出て、この苦しい状況での会は絶対やるべきだし、行きたいと思ったし、行ってよかった。人間はやはり苦しい時にいろんなものが見えてきて味わい深い」と感想を述べている。