すべての犬と猫については、生後8週間(56日)は親子ともに飼育すること――。アメリカやイギリスなどの欧米先進国で導入されている、幼い犬猫を親から引き離すまでの「日数制限」を盛り込んだ条例が、北海道札幌市で制定された。
離乳前の幼い段階で親から引き離された犬や猫は、適切な社会化がなされず成長後も問題行動を取る傾向が強まるとされる。国内でも規制を求める声が高まっていたが、動物愛護法の整備は遅れていた。こうした状況の中で制定された今回の条例に対し、複数の動物愛護団体から「先駆的な取り組みで、法改正に向けた大きな一歩」などと期待の声が上がっている。
「殺処分数の増加につながる」との指摘も
札幌市議会で2016年3月29日に可決された「動物愛護管理条例」の中に、犬と猫について「生後8週間は親と一緒に飼育してから譲渡するよう努めること」とした努力義務が盛り込まれた。施行は16年10月だ。
犬や猫といった動物が、一定の日齢に達していない段階で親から引き離された場合、どのような悪影響が生じるのか。環境省が11年に発表した報告書によると、子犬や子猫を早期に親などから引き離すと「適切な社会化がなされない」。その上で、犬の場合は「かみ癖や吠え癖などの問題行動を引き起こす可能性が高まる」と指摘している。
また、都内の動物病院関係者は16年4月5日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「コミュニケーションの最初期で親から引き離された犬や猫は、あらゆる面で過敏な反応を示すようになります。成長後も人に触れられるのを極端に嫌がったり、怖がって噛みついたりなどの問題行動をとる傾向が強まります」
と明かす。また、こうした早期での引き離しを原因とした問題行動が「飼い主の飼育放棄を招く可能性がある」として、「殺処分数の増加につながる」と指摘する動物愛護団体もあるという。
アメリカやイギリス、ドイツといった欧米先進国では、販売などの目的で動物の親子を引き離すことを8週齢(56~62日)禁じる「8週齢規制」がすでに導入されている。だが、国内での法整備は遅れており、複数の動物愛護団体が規制を求める署名活動を実施するなど、「8週齢規制」の早期実施を訴える声が高まっていた。
「法改正に向けた大きな一歩」
実は、国内でも12年の動物愛護法改正時に、ペット販売業者などに対して「出生後56日未満の子犬猫の販売や展示を禁止する」という条項が新設された。だが、販売禁止となる日齢は、16年8月までは「45日」、それ以降は「別に法律に定める日」までは「49日」と読み替えるという附則がつけられている。
いったいなぜ、法律の本文で「56日」と定めておきながら、実際の運用は「45日」となったのか。朝日新聞が運営する動物情報専門サイト「Sippo(シッポ)」の16年2月2日の記事によると、「動物取扱業者らが作る業界団体や一部国会議員が強く反対した結果」だという。
つまり、今回札幌市が可決した条例は、「努力義務」という形ではあるが、遅々として進まない法整備に先んじたものといえる。そのため、ツイッターなどには条例の可決前から「具体的数字を掲げたことに大きな意義がある」「全国に広まって欲しい」といった書き込みが相次ぎ、大きな話題を集めていた。
北海道の動物愛護団体「しっぽの会」は、「札幌市の条例をきっかけに、同様の動きが全国に広まればと思います」と期待を表す。また、東京都内で活動する動物保護団体も、「法改正に向けた大きな一歩です」と賛辞を送った。
ただ、札幌市の動物管理センターは4月5日のJ-CASTニュースの取材に対し、「反響の大きさに驚き、戸惑っています」と率直な心境を明かす。その上で、複数の動物愛護団体から期待の声が上がっていることを伝えると、
「今回の条例は、あくまで『市民に向けた努力義務』を呼び掛けたもので、強制力を持つものではありません。そもそも、販売業者への『規制』は法律で定める内容ですので、条例にそこまで求めることはできません」
と冷静に話した。