国内の離島航路で活躍する「ジェットフォイル」と呼ばれる高速旅客船が、存亡の危機に直面している。1977年に初めて就航したジェットフォイルは現在、国内で海運会社6社が18隻を就航させ、年間240万人が利用しているが、製造から20年以上が経過して老朽化が進み、世代交代の時期が迫る。しかし、1隻約50億円かかるジェットフォイルは20年以上生産されておらず、「新船の建造自体が消滅の危機に直面している」というのだ。
ジェットフォイルは米ボーイング社が開発し、日本では川崎重工業がライセンス生産を行った高速旅客船だ。船体の前後にある水中翼の揚力で船体を海面に浮上させ、45ノット(時速83キロ)で航行する。3.5メートルの荒波でも安定した航行が可能で、荒天でも高い就航率を誇り、「離島を結ぶ航路では必要不可欠な存在」(日本旅客船協会)という。
近い将来、部品が調達できなくなる恐れ
国内では、ボーイング社と川崎重工製造のジェットフォイルが東京~伊豆大島、博多~壱岐・対馬、新潟~両津(佐渡島)、鹿児島~種子島・屋久島などを結んでいる。博多~釜山を3時間で結ぶJR九州高速船の国際航路もある。これらのジェットフォイルは全国の離島に住む26万人の島民や観光客の足として、年間240万人に利用されている。
しかし、国内で活躍するジェットフォイルは、最も新しいもので建造から21年、最も古いものでは37年が経過し、更新の時期を迎えている。「ジェットフォイルの寿命は長いが、船体や水中翼は25~35年が寿命の目安」(日本旅客船協会)という。関係者は「新船建造が20年以上中断していることから、エンジンや部品が製造中止になっている。近い将来、部品が調達できなくなり、退役が避けられない」と懸念を表明する。
ジェットフォイルが登場以来も単胴船、水中翼船、双胴船、ホバークラフトなど次世代高速船の開発はあったが、「ジェットフォイルに匹敵する性能をもつ高速船は建造されず、いずれも退役した」という。
建造に向け、共有期間の延長措置も
ジェットフォイルを建造するには1隻約50億円かかるという。しかし、「離島航路は、人口減少から海運事業者は厳しい経営環境に置かれている」(日本旅客船協会)のが現実。同協会は3隻の建造を予定しているが、政府に50%の建造費支援を求めている。
国土交通省によると、ジェットフォイルの建造は独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」と海運事業者が費用を分担し、完成後は同機構と海運事業者が9年間共有し、その後、海運事業者が同機構から残存簿価を買い取る仕組みとなっている。国交省は「現在のジェットフォイルの船価を踏まえると、法令上の耐用年数(共有期間9年)では共有建造制度の活用が困難だ」(海事局)として、自治体の無利子貸付などの支援があれば、共有期間を最大15年に延長するなど海運事業者を支援する方針だ。ジェットフォイルの更新は進むのか、注目される。