人とつながり、伝え合う大事さを学んだ
参加人数は当初予定より少なかったかもしれない。だが、実際に「被災地の今」を見た高校・大学生参加者には、その印象は強く心に刻まれた。東京から参加した女子高生は、フェイスブックに長文で福島への思いを寄せてくれたと松本さんは話す。「『ツアーが本当に楽しかった。また行きたい』とも書いてくれたのです」。郡山市から来た男子高生の場合、旅館で松本さんと一緒に風呂に入りながら「同じ福島に住んでいるのに、相馬がこうなっているとは知らなかった」と話してくれた。
手作りのツアー、しかもメンバーの誰もが初めての経験で、課題は残っただろう。だが、それを上回る成果や手ごたえを感じたに違いない。田村さんは、「人とつながり、伝え合う大事さを学びました」と語る。震災後、飯舘村を離れて友人と別れ、精神的な動揺も小さくなく、「自分から何かをやろうと動けない時期もありました」。プロジェクトの参加を通じて、福島の被災地の人々が努力して復興に向かっている姿を伝える大切さを実感したという。しかも一方的な発信ではなく、実際に参加してその目で見てもらうことにより共通理解が生まれるのだと、田村さん自身バスツアーから気づきを得た。松本さんの場合、自身が故郷について伝える立場にありながら、地元について改めて発見したことも少なくなかった。
プロジェクトはその後も続いた。2016年1月17日には、福島市内で震災や原発事故のドキュメンタリーや、県内の高校生が制作した震災をテーマにした映像の上映会を開催した。上映後に「ふくしまの明日をつくる」と題したトークセッションを行い、参加者全員でふるさとの未来について考えた。この日は、主に県内から15人が参加し、うち11人は社会人だった。
1年間のプロジェクトを「完了」した田村さんは、4月から新社会人として新たな環境に身を置く。松本さんは受験生だ。忙しくなるが、それでもこうした活動は大学進学後もずっと続けていきたいと話した。(おわり)