東日本大震災で津波と原発事故の2つの大災害が直撃したのが、福島県相馬市や南相馬市を含む太平洋沿岸の「相双地域」だ。震災から4年余りが過ぎた2015年4月、この地域の高校生を軸に、被災地の現在の姿について情報発信するプロジェクトが始動した。
初めて立てた企画は、福島県内外の若者参加者を募っての被災地バスツアーだ。ふるさとのありのまま、本当の姿を見せたいという願いを込めた。
自分たちの言葉で震災経験や将来のふるさとへの思いを語ろう
福島県相馬市にある相馬市民会館に2015年8月8日、1台の観光バスが到着した。出迎えた高校生のひとり、松本光基さんは2015年4月にスタートした「相想(そうそう)スマイルプロジェクト」の高校生リーダーだ。
同プロジェクトは高校生が中心となり、被災地域の再生支援活動を目的としたもの。運営にあたっては、大学生の有志メンバーやNPO法人「市民公益活動パートナーズ」がサポートする。プロジェクト立ち上げから4か月ほどで実施したのが、この1泊2日の相馬・南相馬スタディーツアーだった。
南相馬市出身の松本さんは、震災当時は小学6年生。津波が学校の校舎の近くまで迫ってきたという。何とか収まったころに母親が迎えに来て自宅に戻り、生活上最低限必要なものを手に高台にある祖母の家に向かった。ひと息ついたのもつかの間、東京電力福島第1原発の事故が起きる。3号機の水素爆発で、今度は父の単身赴任先の栃木県に一家全員避難を余儀なくされた。2011年4月に現地でいったん中学校に入学し、7月に南相馬に戻ってきた。
中学校では生徒会に参加、地元の高校に進学してからは生徒会活動に加え、学外の高校生団体にも所属する行動派だ。自分たちの手で被災地の情報を発信できる「相想スマイルプロジェクト」を知ると、興味を持った。「やれることは何でも挑戦しようと考えていました」と、迷わず参加を決めた。
プロジェクトの推進にあたっては大学生やNPOメンバーがバックアップしてくれるが、あくまで主役は高校生だ。何を伝え、知ってもらうか――。松本さんとメンバーは知恵を絞った末、全国の高校・大学生に、被災地である相馬に来てもらい、自分たちの言葉で震災の経験や将来のふるさとへの思いを語ろうと、バスツアーを提案した。