うつ病のはずが治療の効果ゼロ 医師をも欺く意外な体の変調

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脳には異常なし、ところがお腹を調べたら

   女性を危機から救ったのは、岡山大学病院精神科神経科助教・高木学医師だ。心の病に隠れる体の変調を、さまざまな方法から探る「神経診察」を行う。

   うつ病には大きく分けて、精神症状のみのものと、精神症状に加えて身体症状をともなうものがあるという。後者の場合、脳梗塞や脳腫瘍(のうしゅよう)、パーキンソン病の可能性がある。

   最初に、女性にペン先に光る光を見せ、ペンを動かして眼球の動きをチェックした。光を追えないと脳腫瘍の恐れがある。次に、部屋の中を歩かせた。パーキンソン病の場合、すり足になり歩幅が極端に小さくなるからだ。だが、いずれ異常はなかった。

   ところが、ひざの動きを調べているときに女性の口がモゴモゴと動いた。まるで何かを含んでいるように見える。ここで高木医師は、全く別の病気ではないかと考えた。

高木医師「脳波を調べさせてください」

   検査をすると、大きく乱れていたのだ。記憶障害や幻覚が見えたのは、脳波の異常が大きく関係していそうだ。そこで再度問診をすると、夫は「風邪のような症状」が続いていると明かした。その場で熱を測ると、38度もある。

   高熱と脳波の乱れ。高木医師は「お腹のMRIとCT(コンピューター断層撮影)検査をしましょう」と申し出た。

   その結果、女性の右の卵巣が腫瘍で巨大化していた。病名は「卵巣奇形腫による自己免疫性脳炎」。卵巣に腫瘍ができると、通常は免疫細胞が攻撃して対処しようとする。ところが女性の場合、風邪の影響で免疫細胞が「暴走」し、腫瘍ではなく脳を攻撃したとみられる。自己免疫性脳炎は2007年に海外で発見された、新しい病気だ。その後女性は適切な処置を受け、半年後に快復した。

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