プロ野球・巨人軍の不祥事をめぐる報道で、巨人やプロ野球運営側がメディアに対して抗議したり、取材拒否を通告したりする事態が連続して起きている。いずれも識者のコメントについて「事実に反する」「公知の事実を歪曲している」などとしているが、コメントの内容は「論評」の範囲に収まるという指摘も出そうなものだ。
だが、主にこの問題を報じているのは抗議「した」側と「された」側が中心で、多くの記事で識者のコメントを使っている大半のメディアはなぜか「無視」している。
「そもそもきちんと調べているのかも疑問」というコメントが問題になる
問題とされているのは、プロ野球・巨人の高木京介元投手(26)=契約解除=が野球賭博に関与したとされる問題をめぐる報道。具体的には、産経新聞が2016年3月23日の朝刊社会面に掲載したスポーツ評論家・玉木正之氏の
「涙を浮かべて謝ったから処分が軽くなったのかと疑ってしまうし、そもそもきちんと調べているのかも疑問だ。時間がたって周りが忘れることを待っているようだ」
という談話に日本野球機構(NPB)が反発した。
具体的な事実は、産経新聞の3月29日の1面(東京本社15版)に「NPB本紙取材を拒否」と題して掲載された記事で明らかにされた。記事によると、NPBは抗議文の中で「内容は事実と大きく異なり、一般読者の認識を誤導する表現である」と主張し、訂正記事の掲載と書面での謝罪を要求。産経新聞の「NPBでの取材を拒否した」という。産経は訂正や謝罪には応じていない。
この問題は、毎日新聞も3月30日朝刊の社会面で「NPB 産経新聞に抗議」の見出しで報じ、「取材拒否ではないが、敷地内への立ち入りはご遠慮いただいている」というNPB側の言い分を伝えている。ただ、それ以外の主要紙はこの問題を報じていない。
テレビ朝日「確認の取材を別途していなかった」ことを謝罪
論評をめぐる問題は、3月14日夜にテレビ朝日で放送された「報道ステーション」でも起きた。試合前の円陣で行う「声出し」をめぐる金銭授受の問題で、朝日新聞編集委員(当時)の西村欣也氏が、NPBが問題調査を司直の手に委ねようとしていないとして、その原因について
「読売グループの巨大な力を持っている方が圧力をかけているんじゃないかと感じる」
と述べたVTRが放送された。西村氏はスポーツ専門記者として知られる。
これに対して巨人は、15年10月の野球賭博問題発覚以降、巨人が警視庁に相談している事実は広く報じられているとして、西村氏の発言が
「公知の事実を歪曲しているだけでなく、何ら根拠のない発言」
などとテレビ朝日に抗議した。
これに対し、テレ朝は3月30日放送の同番組の中で、古舘伊知郎キャスターが
「このコメントがどのような取材に基づくものだったか把握しておらず、(テレビ朝日として)確認の取材を別途していなかった」「放送は控えるべきだった」
としたうえで、
「関係者及び視聴者の皆様にご迷惑をおかけした」
と謝罪した。
この事実は読売新聞が3月31日朝刊で「テレ朝 巨人軍報道で謝罪」の見出しで報じた。しかし、それ以外の大手メディアでは、共同通信が記事を配信し、それを同日夕刊で毎日新聞などが掲載した程度で、ほとんど報じられていない。