将棋をテーマにした人気マンガ「3月のライオン」(白泉社)作者で漫画家の羽海野チカさんが、ある編集者の口にした「心ない一言」をツイッターで明かし、ネット上で大きな話題になっている。
「なぜ将棋を?」――編集者にそう訊かれた羽海野さんは「棋士と漫画家は似たところがある」と執筆動機を語る。しかし、返ってきた反応は予想もしないものだった。
「私のすべてをバカにされた気持ち」
2016年3月28日、羽海野さんは「だいぶ前の話」とことわったうえでツイートし始めた。同作を刊行する白泉社に所属していない、年配の編集者と話したときのことだ。
その編集者は「なぜ将棋を?」と聞いた後、「棋士と漫画家は似た所があるような気がして」と答えた羽海野さんに「どこが!?だって棋士は命をかけてるんだよ!?」と指摘。
続けて、「(3月の)ライオンはさぁライトノベルなんだよね。もっと棋士の深い所を描いてよ」と依頼したという。ちなみに、「ライトノベル」は表紙や挿絵に漫画を挟み込んだ小説であり、「3月のライオン」はれっきとしたマンガ作品だ。
羽海野さんはこの一言に「彼は漫画とライトノベルを何だと思ってるんだろう」「私たちが命をかけていないとお思いか」と憤ったことを明かし、「漫画もライトノベルも将棋も大好きな私はその全てをバカにされた気持ちになった」「ふと急に思い出してはギギギとなる」と、そのときの憤懣やるかたない心境を吐露した。
手塚治虫文化賞漫画大賞も受賞
ツイートはすぐさまファンの目に留まり、
「なんて失礼な編集者」
「みんなそれぞれ誇りを持って命かけて戦ってる」
「作品を生みだす人達はみんな身を削ってる」
といった反応が続々寄せられた。
「創神と喪神のマギウス」(富士見書房)などの作品で知られるライトノベル作家・三田誠さんもツイッターで「いまだにプロの編集さんにそんな方がいらっしゃるとは、力不足に恥じ入るばかりです」と驚きの声を上げた。編集者の失礼な言動はまとめサイトにも転載され、今なおネット上で拡散を続けている。
同作は07年からマンガ雑誌「ヤングアニマル」(白泉社)で連載開始。幼い頃に事故で家族を失い、孤独を抱えて生きてきた17歳のプロ棋士・桐山零が、川本家の3姉妹や棋士との交流を通し、前向きな姿勢を取り戻す様を描く。2014年には手塚治虫文化賞漫画大賞を受賞している。
16年秋からNHK総合でテレビアニメ化されるだけでなく、実写映画化も決まっている。
その編集者はいま、どんな思いでその後の動きを見つめているのだろう。