首相官邸の「専権事項」となった審議委員人事
日銀の審議委員は明確な「枠」はないものの、実質的に「学者(大学教授、エコノミスト)」「大手企業役員」「金融機関」から選ばれることが多かった。要するに、大企業やメガバンクのトップ、準トップ級の経験者、著名学者など、それなりの「権威」ある人物を選ぶのが不文律だった。桜井氏はほぼ無名で、どれにもあてはまらない。また、審議委員の選任にあたっては、日銀当局が水面下で調整にあたり、財務省も非公式に案を出していた時期もあった。特に、多様な意見を踏まえた議論を担保することが暗黙の前提であり、金融緩和に理解のある「ハト派」、金利引下げや緩和に消極的な「タカ派」のバランスを考慮する人事が行われていた。
ところが、大規模な金融緩和策がアベノミクスの金看板となった現在は「審議委員人事は官邸の専権事項」(財務省筋)となった。白井氏の後任選びも首相周辺が進め、「学者や産業界の代表といった枠にはこだわらない。とにかくアベノミクスを応援してくれる人が必要だ」とされていた。
官邸が今回の人事にこだわったのは、総裁、副総裁、審議委員の計9人で構成する日銀政策委員会の微妙な力関係がある。2014年10月に決定した追加金融緩和策は、賛成5人、反対4人で二つに割れ、今年2月のマイナス金利政策導入も、同様に賛成5人、反対4人の薄氷の決定だった。黒田総裁の政策運営は綱渡り状態なのだ。
官邸側は2015年、名うてのリフレ派、原田泰氏を審議委員に送り込むなど、大規模緩和策に消極的な委員を積極派に入れ替えてきた。マイナス金利政策に反対票を投じた白井氏が桜井氏に交代することで、また黒田総裁への支持票が増え、政策運営は安定するとみられる。